ファンレター
「分かっていただけたと思っていたのですが。残念です」
紳士的だった以前の尾根さんとは、少し違った仕事人の顔。
ドキドキしてた。
ビクビクしてた。
どうするつもりだろう。
もう、十と会う事も許されないかもしれない。
約束だった、ファンでいることさえ…
でも、一番怖かったのは十に迷惑をかけることだった。
私のせいで、せっかく登ってきた芸能界の山を、落下させてしまうのは嫌。
十には、このまま頑張って欲しい。
十の言う「一人前」になるまでは、ずっと応援してたい。
それなら、どうすればいい…?
矛盾してた。
好きだから、一緒にいたいこと。
このまま頑張ってる姿を、応援したいこと。
だから迷ったまま、ここに来てしまって。
沈黙の中を、思考回路が駆け巡った。