ファンレター



「分かっていただけたと思っていたのですが。残念です」



紳士的だった以前の尾根さんとは、少し違った仕事人の顔。



ドキドキしてた。

ビクビクしてた。



どうするつもりだろう。

もう、十と会う事も許されないかもしれない。

約束だった、ファンでいることさえ…



でも、一番怖かったのは十に迷惑をかけることだった。

私のせいで、せっかく登ってきた芸能界の山を、落下させてしまうのは嫌。

十には、このまま頑張って欲しい。

十の言う「一人前」になるまでは、ずっと応援してたい。



それなら、どうすればいい…?



矛盾してた。

好きだから、一緒にいたいこと。

このまま頑張ってる姿を、応援したいこと。

だから迷ったまま、ここに来てしまって。



沈黙の中を、思考回路が駆け巡った。








< 178 / 218 >

この作品をシェア

pagetop