ファンレター
カチッ
静まり返った部屋の隅で、大北さんがライターに火をつけた。
「そこまで制限しなくていいんじゃないですか。この子だって、十の邪魔をしたいわけじゃない。ただ、彼の世界を知りたくて、そうすることで少しでも彼を近くに感じたいだけなんだと思いますよ。二人ともまだ高校生じゃないですか」
「運だけで伸し上がってきたお前とは違う。若い者と騒いでいればいいだけのこんな業界とはまったく別だ」
「ちょっと待ってください。今の言葉は撤回してもらわないと、僕としても気がおさまりません」
緊張する部屋の中で、私たちの日常とはかけ離れたドラマみたいな場面が、目の前で起ころうとしてた。
不安に満ちた私と多美を見て、桂さんも二人の会話に入る。
ただ、そのことで空気は一層悪い方向へ流れてしまったんだけど。
「そうですよ、昔とは違うんだ。プライベートな部分があってこそ、磨かれることもあるはずですよ。実際、尾根さんだって…」
「桂、お前をこの業界から消すことくらい、今すぐにでもできる事を忘れるな」
「…っ」
「あのっ、ちょっと待ってくださいっ!」
私は張り詰めた空気を破るかのように叫んだ。
私のせいで、みんなの関係まで壊れてしまう。
どうしたらいい?
どうすれば、みんながうまくいくの?
視線を集中させたグラスを、私は一気に傾けた。