ファンレター
「これ…何ですか?」
「あぁ、再来月の修学旅行の資料だ。行き先は東京だが、みんな行きたい場所がバラバラでな。いくつかコースをまとめることになったんだ。
ところが、仮の段階でいいから、教頭が出張前に見たいって言い出したんだよ。ったく、おかげですぐにでも作らんといかんくなった。
それでだ。羽田、一緒に考えてくれるか。オレはクラス担任を持ってないから時間があるはずだって、他の先生も無責任なもんでさ」
山口が頭をかきながら、私の向かい側の席に座る。
「あの、教頭先生の出張って…」
資料の束を指で摘まみ上げながら、私はおそるおそる聞き返した。
「今日の18時の新幹線乗るって言ってたから…、そうだなぁ、17時までにまとめればなんとかなるだろう。これくらいの課題で済んで、お前もラッキーだったな」
そう言って嬉しそうに笑ってくる山口。
十の所へ行くのは無理と、絶対的な太鼓判を押された気分だった。
時計に目をやる。
15時20分。
駅までは走っても15分はかかる。
そしてこの資料の山。
「羽田ならまとめることくらい得意だろ?いやぁ、本当に助かる!お前が授業さぼってくれて、けっこうオレがラッキーだったかもな。ハッハッハ」
急げば、30分で終わる?
ううん、何バカなこと考えてるんだろう。
行かないんじゃなかったの?
まだそんなことを考えてしまう自分が嫌で、何度もため息をついた。
そして思わず、立ち上がった。