ファンレター
「山口先生…、少しだけ待っててください。すぐ戻りますからっ」
「え、おい!すぐって…コラっ!時間ないんだからな!羽田!オレ一人じゃ無理なんだって、おいー!」
話を最後まで聞かないまま、私はもう廊下を走ってた。
多分、まだいるはず。
階段を駆け上がって、一番奥の教室。
転びそうなつま先に力を入れて、勢いよくドアを開けた。
「多美っ!」
「どっ…どうしたの涼!山口に何かされた?」
あまりの勢いに、多美も一瞬変な勘違いをしたみたいだったけど
私が首を横に振って課題のことを話すと、落ち着いた顔で席についた。
「やだもう、変なこと想像しちゃったじゃん。それくらいなら涼は得意でしょ?やってあげなよ。東京かぁ…、楽しみだよね」
「多美聞いて。…今すぐ駅に行ってほしいの」
力なく呟く私を見て、多美がきょとんとした顔をする。
でも、瞬間的に理解してくれたみたいだった。
「十くんが、東京帰るのね」