ファンレター
私は黙ってうなずいた。
多美との約束だった。
十が帰る情報は、必ず教える。
友達として私がなかなかしてあげられなかった、大切な情報交換だ。
鞄に付けたキーホルダーの音が、慌てる二人の様子を強調した。
「涼は……、行かないの?」
教室を出ながら多美が振り返る。
私は無気力のままに笑顔を返した。
「私は昨日いろいろ話せたし。そこまで夢中なファンじゃないから、もういいよ。……多美は、十の一番のファンなんでしょ?だから行って来て。私はいいから」
多美には嘘をついてばかりだな。
友達なのに。
足早に駈けて行く多美の後ろ姿が見えなくなっても、私はしばらくそこを動くことができなかった。
15時50分。
学校の時計の針は不思議なもので、普段は音なんて全く聞こえないのに、時間を気にしてる時には、驚くほど大きな音で一針が進む。
私が少し抜けたせいで、間に合うか心配になった山口は、ちょっと怒ってるみたいだった。
なんとも仕事がはかどりにくい空気。
多美はもう、駅に着いたかな。
山口が頭を悩ませながら部屋の窓を開けた。