やまねこたち
家に帰って、まずあたしはすぐに風呂場に連れて行かれた。
数分冷たいタイルの上に倒されたままで待っていると、蓮二は手にホースを持っている。
「な、…」
物々しい雰囲気に、思わず退こうとした。
けど、体は悲鳴をあげている。
シャワーにホースを繋げると、蓮二は水を出し始めた。
「な、にす」
言葉も繋げないまま、蓮二はあたしの顔を掴んで、口にホースを突っ込んだ。
水が止めどなく流れてくる。
「はやく飲め、急げ!」
何が何だか分からないまま、その冷たい水を喉の奥に流し込んだ。
焼け爛れた喉が痛い。
すると、何を思ったのか蓮二はあたしの喉の奥まで指を突っ込んだ。
全身鳥肌が立つ。
冷たい水が胃の中に流れてくるのが冷たくて、感触がリアルに分かって、そして容赦なく喉の奥に突っ込んでくる指に胃の中がせり上がる。
なんでこう、喉の奥を行き来されると人間って吐きたくなるのかな。
そんなことを思いながら、あたしは動きが悪い腕を振り上げて、蓮二を殴り付ける。
なんで気持ち悪くなるんだろ、とかそんな悠長なことを考えていられない。
健康な状態でさえ口に手突っ込まれて糞気持ち悪い状態を許すはずが無い。
それなにあたしは今、絶賛不健康だ。
「ぅ、うえ」
蓮二の指が離れた瞬間に、あたしは胃の中の水を吐き出した。
息ができない。苦しい。苦しい。まじで、何も喋れない。
悲しいからじゃなくて、ほんとただ気持ち悪くて、涙が止まらない。気持ち悪すぎて。
「く、るしい」
何も食べていなかったからか、吐き出したものの色は勿論透明。なんてぼんやり思っている暇もなく連二はまたあたしの口に手を突っ込んだ。
おい、まじで、まじでやめろって。なにやってんだよ、なんで人間が嫌う生理的現象を無理やり起こしてるんだよ。もうゲロ出す気力もないっての、おい蓮二。
声も上げられないまま、あたしは2回目の嘔吐にはしった。
呼吸を整えて、呼吸器官に入りそうだった水で咳き込む。
「ま、じで、な、に」
自分でも分かる、荒く呼吸して、あたしはやっと落ち着いた。
「いや、がちめに説明とかしてられる状況じゃない。艶子、とりあえず胃の中全部出せ」
「はあ?」
あたしが落ち着いたのを見ると、蓮二はまたあたしの口にホースを突っ込む。
冷たい水が容赦なく胃に流れてくる。
水を吸わないように、息をするのがやっとだ。
左手で、蓮二の体を殴る。だけど蓮二は頑として動かなかった。
それどころか、逃げないように遠慮なくあたしを押さえつける。おい、これでも女なんだぞ。
苦しい。まじでやばい。
そして大量の水を飲み干すと、また指を突っ込まれて全部吐き出すんだ。その繰り返し。
繰り返していくうちに、吐き出したものはただの水になっていった。