世界の終りで愛を歌う
喜美枝は私の胸ぐらから手を離した。
そして乱れた襟元とネクタイを手早く直す。
そして花のような笑顔になった。
「なーんだ。聞いてなかっただけなの。
私はてっきり赤ちゃんが生まれる事が嬉しくないかと思った」
「何だって!? 嬉しくない訳があるか!! でかした!! アハハ!! やった!! 凄く嬉しいよ!!」
私はこんなに大きな声が出たのかと驚いた。
そしてこんなにも嬉しい事が出来るのかと驚いた。
私が勝手に描いた絶壁の未来は幻想に過ぎなかった。
現実は余りにも綺麗で楽しく、そして幸せだった。
私の人生は光に満ちているように見えた。
希望の光の中に私達夫婦はいた。
早く父と母に孫の顔を見せてあげたい。
私と父は共に過ごした時間は少ないが、
この大きな幸せをくれたのは父だ。
父が私と喜美枝を出会わせてくれ、
それどころか、父は種を母はそれを実らせ、生んでくれた。
十分過ぎる教育も資産も与えてくれた。
私達親子に言葉はいらなかった。
愛していると言わなくても、
それは肌で心で魂で感じ取っていたのだから。