恋文
扉の鈴を大きく鳴らしながら、アタシのお気に入りのお店――ボヌールに入る。
そこには、すっかり仲良くなった玲二さんがいて、いつものように迎えてくれた。
「らっしゃい」
「玲二さーん、コンニチハー」
「おう。また待ち合わせか?」
「そ。だからヤクルトちょーだい!」
「待ってろ。」
悠哉さんとプラネタリウムを見に行った日から数日が経った。
毎日メールもしているし、ときどき電話もする。
どちらかがサボる時は、もう一方もサボってドライブに行くのが通例となってしまった。
相変わらず、アタシ達の距離感は縮まることも広がることもなく、いつも通りの日常がただ過ぎ去って行く。
悠哉さんに会えた日は世界が色づいて見えるし、会えない日は白黒だ。
これは、だいぶ重症だと思う。
アタシは悠哉さんの会社も知らない。
出身地も住所も家族構成も片想い中の相手のことも。
何度か聞いたことはあったが、あの嬉しそうな顔で語られるとアタシの心はズタボロになる、ということが分かってからはあまり聞いていない。
プラネタリウムを見に行った日に見せた悲しそうな表情についても聞くことが出来ず、アタシだけがズルズルと引きずっている。
それでも良いと決めたから。
何も聞かない、悠哉さんにとって無害な存在であり続けると決めたから。
そうでもしなければ、悠哉さんはまるで風に吹かれる雲のように、ふわふわと実感を失くし、アタシが手を伸ばしても空しく空気をかくだけになってしまいそうで怖いから。
悠哉さん、とアタシが呼べば、「なぁに?」と人懐っこい笑顔で応えてくれる。
アタシが手を伸ばせば、優しい笑顔でその手を掴んでくれる。
アタシが笑えば、悠哉さんも嬉しそうに笑い返してくれる。
でも、アタシが悠哉さんに近付けば、あの悲しそうな笑顔を残して消えてしまう。
その関係を望んだのはアタシ。
何も聞かないと決めたのもアタシ。
越えようと思えば、一瞬で越えることの出来る1線。
アタシは怖くて、足がすくんで踏み出すことが出来ないけど、悠哉さんが好きな人はそれが出来たのかな?
もしそうなら、羨ましいな。
そんなことを考えている自分がバカバカしく思えて、カウンターにおでこを密着させる。
そんなアタシの横にヤクルトが置かれ、ボヌールで悠哉さんと待ち合わせしていたことを思い出す。