恋文
「じゃーん!!」
「うわぁ…。」
アタシは無意識に感嘆の声を上げる。
悠哉さんの後ろには大きな大きな動物園が広がっていた。
象をかたどったような門に、入り口でアタシ達を迎えてくれる子羊達。
アタシは子羊の元まで新記録でも出せそうな速さで走った。
「すごー!悠哉さん!見て見て!羊!かわいい!メェーって鳴くかな?メェーメェーおーい、メェーって。」
モフモフの子羊にメェーと鳴き真似をするも、子羊はフイッと顔を反らすばかりで、なかなか鳴いてくれない。
「メェーメェー、メェーってば…。」
7回目あたりで恥ずかしくなって、後ろにいる悠哉さんの所へ戻ろうかと振り返ると、悠哉さんは手を口元に当てて肩を震わせていた。
「ぷっ…くくっ。ハルちゃんかわいっ…くっくっ…」と、途切れ途切れの言葉で言い、笑いを堪えようとするも、何が引き金を引いたのか突然「あははははっ!!もうダメだわ!くくっ!あはははははは!!」と、大声を上げて笑い始めた。
なんで笑うのかが分からない。
「何故、貴様はそこで笑うか。」
「たっ、たいちょっ、が、可愛すぎて、だってメェーって!メェーって!くはっ!高校生にもなって恥ずかしい奴!はははっ!!」
アタシの下らない隊長と軍曹ごっこに付き合ってくれるのは良いんだが、軍曹の言葉が聞き取れない。
どんだけ受けたんだよ。
とりあえず、バカにされてることだけは伝わったぞ!軍曹!
「軍曹、貴様は我を侮辱するか!良いのかっ!?おこだぞ!隊長おこだぞ!」
「隊長おこって!マジ隊長可愛すぎて…くくっ…………ごほんっ。んっんー。あー、隊長?そんな怒るなって?冗談だよ、な?おーい、隊長~。」
と言いつつも、悠哉さんの口角は微妙に上がったままだ。
「隊長ぉ~ごめんって~。……口聞いてくれないとか、寂しいんですけど…。」
…………コイツ確信犯か…?
目の前で両手を合わせ、情けない声を出す悠哉さんが可愛すぎてツラい。
いや、まじで。
最後の「口聞いてくれないとか、寂しいんですけど…。」とか、完全にクリティカルヒットしました。
「…アイス奢ってね。」
「!奢る奢る!10本でも100本でも奢るよ!」
一気に表情が明るくなった悠哉さんに引かれて、動物園の中へと入る。
人は多くもなく少なくもない。
平日の昼間にしては多い方だ。
「ハルちゃん、何見たい?」
「んー、ライオン?」
「良いねー!ライオン見に行こー!」
動物園のマップを右手に、ウキウキワクワクが隠せずにいる、子供のような表情の悠哉さんに自然と笑みがこぼれる。
なんか、母親の気分。
スーツ似合うのに、似合わない。
悠哉さんってゼッタイ性格で損するタイプだよね。色々と勿体ない。
「悠哉さんってイケメンの無駄遣いだよねー」
「えっ!?急に何さ!」
少し先を歩く悠哉さんに、そう言うと、少し嬉しそうな照れたような曖昧な表情になった。
「てか俺イケメンだって!嬉しいー!」とか喜んじゃう辺りが、可愛い。
意味分かって言ってるんなら、なかなかプラス思考で可愛いし、分かってないんなら、それはそれでまた可愛い。
どう転んでも、悠哉さんは可愛い。
プラス思考とか可愛いです。
プラス思考な悠哉さん可愛いです。
ネガティブでも可愛いです。
悠哉さんは可愛いです。
可愛い悠哉さんおいしいです。
「ハルちゃん?何ニヤけてるの?」
くっ…。つい顔に出ちゃったか!
急いで口元に手を当てて、さっきの悠哉さんみたいになる。
「なっ、なんでもない!悠哉さんが可愛いとか思ってない!思ってないから!いや、まじだから!!!」
恥ずかしくなって、悠哉さんよりも少し早めに歩く。
が、悠哉さんはすぐに追い付いてきて、隣でニコニコと笑ったまま、道の先を見る。
「俺、よく可愛いって言われるんだけど、そうかな~?俺、カッコ良くない?」
「え?いや、悠哉さんはカッコ良いですよ?カッコ良いし、可愛いんです!」
「ぷっ…なにそれ!カッコ良いと可愛いって真逆の表現じゃん!」
「悠哉さんはカッコ良いって言われる方が好きなんですか?」
「そりゃあ、ね。俺だって男の子だし、周りから、カッコ良い!って言われる方が嬉しいよ。」
可愛いって褒め言葉なんだけどなぁ…。
悠哉さん的には、可愛いはあまり言われたくないらしく、遠回しにそれを伝えてくる。
そういう所が可愛いんだよ、悠哉さん。
「悠哉さんはカッコ良くても、可愛いくても悠哉さんです!アタシはどっちでも好きですよー」
軽いノリで言ったつもりが、悠哉さんの顔はみるみる赤くなって、右腕で顔を覆ったまま、顔を背けられてしまった。
照れてた、のかな?
あーもう。無自覚なのも、色々と問題だ!
可愛いすぎる!!
これで悠哉さんが女子で、アタシが男子だったらヤバイよ!完璧惚れてるよ!
いや、今も惚れてるんだけどネ。
…ん?あぁぁぁあああぁぁああ!見付けたぁぁぁあああぁぁああああ!!!!!
アタシの目には、顔を背けたまま、しばらくこっちを見そうにない悠哉さんの背中越しに、ライオンの檻が写ってしまった。
悠哉さんを置いて、思わず駆け寄る。
「ふぁぁあああああ!!!」
そこにはお母さんライオンと赤ちゃんライオンが寄り添って寝ていた。
あまりの可愛さに、つい叫んでしまった。
これ大丈夫だよね?
起きたりしないよね?
アタシの声は、どうやら届かなかったらしく、大小の2匹のライオンはスヤスヤと心地よい眠りについていた。