恋文
それは笑っちゃうくらい可愛い乙女心な訳ですよ。
恋愛小説とか読みながら、こんな乙女いないわ、とか心の中で嘲笑ってたけどゴメン。
やっと気持ちが分かったよ、主人公達!
「ねぇー悠哉さん」
「んー?なぁーにー?」
「悠哉さんって会社でモテるー?」
「んーん。別にー。」
「ウソだ」
「うん、ウソ。」
意味のないやり取りをむず痒く感じながらも、それができる相手がいることを嬉しく思った。
ないに等しい風が、アタシと悠哉さんの間を吹き抜ける。
「告白されたりするのー?」
「それはないよ。だって、みんな俺が片想い中って知ってるもん!」
ニカッと白い歯を見せて笑う。
胸がチクッと痛んだ気がした。
「あのさ、悠哉さんの好きな人って同じ会社なの?」
初めて、悠哉さんの好きな人について聞いた。
「違うよ。奈美は別の職場。」
初めて名前を知った。
〝奈美〟と呼んだ悠哉さんの声色は、いつも以上に優しくて、またチクッと胸が痛んだ。
「その人、奈美って言うんだ。」
「そ!泉堂奈美。俺と同い年。」
「いつ会ったの?」
「今日はずいぶん聞いてくるなぁ。あ、別に嫌な訳じゃないよ?奈美と初めて会ったのは大学生の時。俺の一目惚れ。告白したら3秒でフラれた。『初めて会ったばかりの人とお付き合いは出来ません』ってさ。」
今度は少し困ったように笑って見せる。
「だから俺ガンバったよ。奈美と同じ話しが出来るようにって天文学の勉強した。」
「悠哉さんが星好きなのって…」
「うん。奈美の影響。」
あぁ、胸が痛い。
悠哉さんは奈美さんの為に。アタシは悠哉さんの為に。
耳を塞ぎたくなる。
本当は「そんなに優しそうに奈美さんのことを呼ばないで」って叫びたい。
でも、これで良い。
こうでもしなければ、ダメ。
アタシはバカだから。
胸が締め付けられるように痛い。
アタシ、こんなに悠哉さんのことが好きなんだ。
「悠哉さん、明日ヒマー?」
胸の痛みをなかったことにするように、気丈に振る舞う。
「え?明日?ごめんね。用事があって…」
…返ってきた言葉に、そんな気丈さもなくなりそうだったけど。
初めて誘いを断られたショックがヤバイ。
悠哉さんだって忙しいんだよ、きっと。
一応、サラリーマンな訳ですから。
「じゃあ、しょうがないかー。お仕事?」
「んーん。明日は奈美と会う約束があるんだ。」
最悪。最悪最悪最悪。
聞かなきゃ良かった、と後悔しながら、そっかー、と情けなく笑っとく。
「今度、アタシにも奈美さん紹介してよ!」
「うん。良いよ。」
珍しく穏やかな笑顔を見せる悠哉さんに驚きつつも、悠哉さんにこんな表情をさせる奈美さんが嫌で仕方ない。
こんなこと思いたくない。
早く止まれ。
パンダの乗り物は嫌に長く動き続ける。
早く。早く止まって。
ふと、空を見るとオレンジ色だった。
「あ、夕日。悠哉さんは明日のためたも早く帰らなきゃ!」
わざとらしく空を指差して、まだノロノロと動くパンダから飛び下りる。
悠哉さんは少し悲しそうに「そうだね、」と笑った。
カンガルー館に戻る時に、やっとパンダの乗り物は動きを止めていた。
大きな大きな動物園の中にあった、小さな小さな遊園地。
もう2度と来ることはないだろう、と思いながら、カンガルー館を後にした。