恋文
水曜日。
2限目からアタシは学校をサボった。
本当はもうちょっと学校にいるつもりだったんだけど、どうも落ち着かなくて抜け出してしまった。
だって今日は悠哉さんとデートだよ!?
デートじゃないけどデートだよ!!
そろそろ違反カード満点になるなぁ、なんて考えながら悠哉さんにメールを打つ。
30点満点の違反カードが満点になると、特別講習が待ち受けていて、内容はその都度変えてくるから厄介だ。
前は、永遠と校長の長話を聞く、だった。
特別講習だけは避けたいが、悠哉さんに会いたいという気持ちが勝った。
メールを打つ時も、ワクワクと心が踊っていた。
返信はスグに来た。
『今行くー』とだけ書かれたメール。
1分が長く感じる。
ケータイを開いては閉じ、また開いては閉じる。
実際は10分ほどしか経ってないのかもしれないが、アタシには1時間に感じるほど長かった。
学校を出てスグの角に、悠哉さんの黒い車が停まっていた。
窓が開き、悠哉さんがヒョコッと顔だけを覗かせる。
「そこの可愛いお嬢さん!俺とドライブでもしませんか?」
イタズラっぽい笑顔で、ちょいちょい、と手招きをする。
その笑顔に引かれるように、アタシは車に飛び乗った。
「遅いよ!」
「えぇ!これでも飛ばしたんだよー!?」
「夏だから良いけど、冬だったら凍死してたよ!」
「そんなにぃ?!仕方ないなぁ、お詫びに好きなもの買ってあげるよ~。何が良い?」
「うーん、カバ焼きさん食べたい!」
「え、カバ焼きさん?うっわー!ちょー安上がり~!」
「良いじゃーん!美味しいんだから!」
「あーウマイよねー。駄菓子屋さんで良い?」
「どこでも良いよー」
「おっけっけー」
車はゆっくりと発進し、悠哉さんが言う、駄菓子屋さんへと向かった。
カバ焼きさんが食べたい訳じゃないけど、悠哉さんと一緒にいれるだけで幸せ。
きっと、センセはまた怒ってるんだろうな~。
「悠哉さんは仕事サボって怒られないの?」
「うん?なに~?急に。サボったの怒られちゃった?」
「いっつも怒られてるよ」
「そっか~学生だもんな~!怒って貰えるうちに、たくさん怒っといて貰え~?大人になったら怒ってくれる人なんて少ないからな!」
「…発言がオッサンくさい。」
「なんでだよっ!」
まだ20代のクセに、言ってることは40代の国語教師と変わんないじゃん。
国語のセンセも前に悠哉さんみたいなこと言ってたけど、怒られないって良くない?怒られて喜ぶとかMなの?
悠哉さんは笑って、
「怒って貰えるってことは、期待されてるってことなんだよ。俺はもう、怒る側だから、怒られる側の気持ちなんて忘れちゃったな~」
「まだ20代の若造じゃん!」
「少なくとも、ハルちゃんよりかは長く生きてるよ!」
「やっぱ、悠哉さんオッサンくさい」
「オッサンで結構結構!ハルちゃんもいつか分かるよ。俺の気持ち。」
「ふーん…?そんなもん?」
「そんなもんだよ。」
前だけを見ながら運転する悠哉さんの横顔を盗み見ながら、曖昧な返事を返す。
大人ってよく分かんないなー。
「悠哉さんは怒る側なの?」
「そうだなー、うーん、怒る側のことの方が多いよ~」
「えー、想像できない!悠哉さんは怒られる側っぽい」
悠哉さんは「なんだよ、そのイメージ!」と苦笑したあと、「少し前までは、俺も怒られる側だったのになぁ~」と目を細めた。
その仕草が、アタシのお父さんが、昔の話をしてくれる時の表情にそっくりで、悠哉さんは精神年齢が高い、という結論に至った。