恋文
なるべく悠哉さんを意識しないように。
うっかり、悠哉さんを好きになってしまわないように。
「つーいたっ!!」
車からおりて、んーっ!と背伸びをする。
悠哉さんも同じことをしていて、2人で笑いながら駄菓子屋へ入った。
中は誰もいなくて、レジのお爺ちゃんがヒマそうにテレビを観ていた。
近くにあったカゴを持った悠哉さんが先頭を切り、狭い店内を練り歩く。
カゴの中はあっという間に一杯になっていった。
「ね!ね!見て見て!ラムネ売ってるよ!」
「あ、俺イチゴ味!」
「じゃあソーダにしよーっと!はいっ!」
「ん。もう良い?」
「ばっちぐー!」
悠哉さんが、お爺ちゃんの長い会計を済ませている間に、アタシは外に出て、新鮮な空気を肺一杯に吸い込む。
「ふぅ。」
店内は空気の籠ったような臭いがして、アタシはあんまり好きじゃなかった。
けど、並べてあるお菓子とか、入れてあるケースとかが昭和っぽくて好き!
今度は友達と来ようかな~。
そう思っていると、前髪をかきあげながら苦笑する悠哉さんが出てきた。
「はぁー、あのじっちゃん会計長いのな!しかも計算全然あってないし!200円得しちゃった!」
「やったじゃん!」
「62円~89円~80...あれ?何円だっけ?って言うんだもん!ちょっと可愛かった!」
車に乗り込みながら、お爺ちゃんが可愛かったことについて語る悠哉さんの方が可愛いと思うのは、アタシの勘違いだろうか?
悠哉さんとアタシの間に袋が置かれて、アタシは中から飲む飲むゼリーなるものを取り出す。
ソーダ味の。
悠哉さんは、チョコを口に放り込みながら、次は何処へ行きたいか聞いてきた。
「えー、特にないー。」
「遊園地とか行く?」
「んー…あ、あれ見たい。プナレタリウム」
「プラネタリウム?」
「そう、それ!」
「くはっ!どんな間違いだよ!あははっ!今のはナイわ!!ごめっ…つぼった!ははっ」
あんまり悠哉さんが笑うから恥ずかしくなって来る。
プナレタリウムもプラネタリウムも一緒じゃん!と言うと、悠哉さんはまた大袈裟に笑いだした。
「笑いすぎ!」
「ごめんって!良いよ、プラネタリウム見に行こうか。」
もう少し先にある科学館に向かって、再び車を走らせる。
科学館なんて何年振りだろうか?
5年?いや、7年は経ってるか。
「てか、ハルちゃん星好きだったの?」
「ううん。でも、なんか悠哉さん見てたら星見たいなーって気になった。」
「漠然とした理由だなー!俺は星好きだよ、綺麗だよね。」
「いつから?」
「星好きになったのは最近だよー!なんか気が付いたら好きになってたかなー」
「へぇ。じゃ、アタシも今日から星好きになろうかな!」
「星って結構ムズいよ~?」
「大丈夫~!任せて!」
星の話をする悠哉さんは、何故か懐かしそうに目を細めた。
それが少し不思議で、少し嫌だった。
そこには、アタシなんかが踏み込めやしない悠哉さんの思い出があって、アタシはあくまでも部外者なんだって思い知らされているような気がしたから。
別に星に興味がある訳じゃない。
ただ、少しでも悠哉さんに近付きたいからっていう不純な動機。
不純でもなんでも、悠哉さんに近付けることが嬉しかった。
アタシはもう手遅れかもしれない。
こんなことを思ってる時点でダメかもしれない。
けど、だからこそ、アタシはその気持ちを知らないフリをして、悠哉さんに気付かれないようにした。
アタシが悠哉さんを好きになってしまったら、悠哉さんはアタシから離れて行くような気がしたから。
ただの予感だけど、こういう時の感はよく当たるんだ。
嫌なほどに。