ガーデンテラス703号
「忙しいんならとっとと帰れよな。もうしばらく来なくていいから」
ホタルがシホとふざけ合っている基さんを冷たい目で睨む。
「ほんと冷たい弟だな、お前」
基さんはわざとらしく肩をすくめると、鞄を持って今度こそ玄関へと歩き出した。
そのあとを追うように、シホがパタパタと急ぎ足で歩いていく。
「じゃあね、基ちゃん。仕事、頑張って」
「ありがとう。シホも、式の当日会えるの楽しみにしてる」
「もううちの美容室で予約とってるからね。見違えるくらい綺麗になって、基ちゃんびっくりするかもよ」
「そりゃ、楽しみだな。じゃあな」
開いたリビングのドアの向こうから、シホと基さんのやり取りが聞こえてくる。
どんな顔で基さんと話してるんだろう。
シホのことが心配になる。
玄関のほうを気にしていると、バタンとドアが閉まったタイミングでホタルが立ち上がった。
驚いて振り向くと、私のことをちらりと横目で見たホタルがスタスタとキッチンに入っていく。
そして、冷蔵庫のドアを開けて取り出したのは二本の缶ビール。