ガーデンテラス703号
「そりゃ、兄貴はそうだろうよ」
ホタルが嫌味っぽくそう言うと、シホはますます不貞腐れた顔で彼を睨んだ。
「基ちゃんは、あんたみたいに冷たくなかった」
「だろうな。お前のこと、妹みたいに甘やかしてたし」
ホタルの言葉に、彼を睨むシホの瞳が小さく揺れる。
「うるさい……」
それでも小さな声で反論したシホの声が、少し震えていた。
缶ビールを握りしめたまま、ちょっとだけ肩を落とすシホに視線を向けながら、ホタルもひとが悪いなと思う。
シホは基さんのこと好きで、その想いが叶わないことを自分でちゃんとわかってるのに……
「妹みたいに」とか、他人の言葉で言われてしまうと自覚があるだけにキツい。
私がここに一緒に住み始めた頃、シホは結婚を考えてくれてた彼氏と別れたと言っていた。
私はその原因がホタルにあるのかな、なんて疑っていたけどそうじゃなかった。
きっと、シホが彼氏との結婚を渋らせたのは基さんの存在だったんだろう。
初めて会った私でも、かっこよくて優しそうで素敵な人だなと思ったんだもん。
基さんをよく知っているシホは、別れた彼との結婚を考えるときに「基ちゃんだったら……」と無意識に何度も考えてしまったのかもしれない。