ガーデンテラス703号
「いえいえ、まさか。デートとかそんなんじゃ……」
「よかった。じゃぁ、俺にもチャンスあるのかな」
ぶんぶんと大きく首を横に振ると、森岡さんがすっと口角を引き上げる。
え、チャンス……?
さりげなく、でもドキッとするような言葉をつぶやかれて一瞬耳を疑った。
『森岡さんの狙いはあゆかだよ』
不意に、昼間の香織の言葉が蘇ってきて、じわじわと頬が火照った。
「おすすめ、適当に頼んでいい?」
森岡さんが、私の前に置かれたメニューをつかむ。
私に笑いかけてくる彼の姿が、暗く落ち着いた雰囲気の店内の照明に照らされて、ものすごく大人な紳士に見えた。
適当に……
彼に任せたら、私の予算なんてすぐにオーバーしちゃうんじゃないかな。
そんな考えがふと脳裏を過る。
でも、森岡さんの穏やかな優しい微笑みに撃ち堕とされたかのように、私は無言で頷いていた。