ガーデンテラス703号
「シ、ホ……?」
え……?
ホタルの唇から零れたその名前を聞いた瞬間、全身が凍りついた。
ホタルの髪に触れている指先が、徐々に温度を失っていく。
身体が小さく震えだすのを感じながらホタルから勢いよく離れたとき、彼が瞼を擦りながらソファーの上で寝返りを打った。
「んー……」
眠たそうに低く唸りながら、ホタルが薄っすらと目を開ける。
急いで上からは飛び退いたものの、その場から逃げきることはできずにいた私を、寝惚け眼のホタルがぼんやりと見上げた。
「ん、れ……?あ、ゆか?」
まだ覚醒しきっていないらしいホタルが、いつもよりもゆったりとした調子で私を呼んだ。
上半身を起こしたホタルが、欠伸をしながら小さな子どもがするみたいにゴシゴシと目を擦る。
「あー、俺、寝てた?」
ひとりごとみたいに訊ねてくるホタルに、こくんと頷く。
特に呼び止められているわけでもないけど、覚醒しきれずにぼんやりと座ったままでいるホタルのそばから、どのタイミングで離れたらいいのかわからない。