ガーデンテラス703号
「だって、ひとりで先に行っちゃうから」
「だからって、焦って入ってこなくたっていいだろ」
「焦るよ。だって、いつも何も言わずに私のこと置いて行くんだもん」
怪訝な顔をするホタルを涙目で睨む。
「いつだって、勘違いさせられてるのは私のほうだよ。期待だけさせて、いつも黙ってどこか行っちゃう。昨日も、森岡さんに誘われた夜も。それから、さっきだって……」
話しているうちに自分が悲しくなってきて、無意識に唇に指をのせる。
唇を重ねている間は、ホタルも私を想ってくれているかもしれないって、そんなふうに思えるのに。
一度離れてしまったら、その思いは夢が見せた幻みたいにすっと消えてしまって。
ホタルが何を考えているかわからなくなる。
だから、ホタルの顔を見るたび、声を聞くたび、胸がドキドキしてどうしようもないのに。
怖くて、「好き」の言葉が伝えられない。