ガーデンテラス703号



「予約時間過ぎてるけど、行くか」

しばらく私の頭を優しく撫でたあと、ホタルが私の手を取ってエレベーターへと促す。

さっき私と知らないカップルで乗った、外の景色が見えるエレベーター。

そこに、今はホタルとふたりきりだった。

オレンジや黄色に輝く街の光を眼窩に見下ろしながら、エレベーターはゆっくりと上昇していく。


「綺麗だね」

ホタルと見下ろす外の景色は、さっきとは違って断然綺麗に見えた。

エレベーターの窓ガラスの向こうをうっとり見ていると、ホタルが窓ガラスとの間に閉じ込めるように私を後ろから抱きしめる。

それから左手の指を絡めるようにして繋ぐと、綺麗にネイルの施された手を顔の前に掲げながらホタルがつぶやいた。


「なんか今日、いつもと違う」

「あ、うん。シホの美容室でヘアメイクしてもらったの。あと、ネイルも……」

耳元で聞こえてきたため息にも似たホタルのつぶやきにドキドキして、早口で事情を説明する。


< 386 / 393 >

この作品をシェア

pagetop