ガーデンテラス703号


「何が『うちのシェフ』だよ。せっかくの休みなのに、こき使いやがって」

ホタルがぶつぶつとそんなことをつぶやいて舌打ちする。


「こき使ったなんて人聞きの悪い言い方しないでよ。2、3品作ってくれたらあとは出前とか頼むって言ったのに、張り切ってたくさん作ったのはホタルじゃん」

「黙れよ」

ホタルはシホを睨んで牽制すると、リビングのソファにどさっと気だるそうに腰かけた。


「ほんとにあんたは昔から空気読まずに楽しい雰囲気ぶち壊すよね」

シホはソファに座る螢の背中に文句を言うと、私の手から仕事用の鞄を奪いとった。


「あゆか、とりあえず着替えてきなよ。それから乾杯しよう」

「あ、うん……」

私はシホに促されるままに頷くと、自分の部屋へと向かった。

だけど部屋に向かうには、ホタルが座るソファの前を通過する必要がある。

腕を組んで背もたれにもたれているホタルをちらりと見ると、私の視線に気づいた彼もつり上がった目で私を見返してきた。



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