その消しゴム1mmに誓って
 「光希、おはようさん」
拓真は光希が読書をしているのにもお構いなしに挨拶を強要させる。朝の爽やかな空気が光希の周だけ重くなり始める。
「おはよう」
ポツリと本から目を逸らさずに挨拶はする。こういうのは従っておけば一番だ。しかし拓真はその行動が気に入らなかったようで眉を八の字にし本を取り上げる。光希が声をあげるよりも早く拓真は光希の視線の先に現れる。
「光希、おはようさん」
「……おはよう。さっきも言ったじゃん。」
「全く。冷たいんだから」
笑いながらそういうともとあったところに本をもどす。
「せっかく友達になったんだからさ、もっと仲良くしようよ」
「友達になったなんて一言も言ってない」
ピラリと一枚、ページをめくる。
「俺たち友達じゃないの!?昨日あんな青春っぽいこと言ったのに。結構恥ずかしかったんだぞ」
少し口を尖らせながら光希を見つめる。
「はあ、友達ってなりたいって言ってなるものじゃないと思うんだけど」
「わかった。俺の頑張り次第ってことね」
そこから会話は続かなかった。朝の集会が始まったのである。光希の頭の中に教師の連絡事項は入ってこなかった。本の内容も、チャイムも。ただ、昨日から急激に可笑しくなったクラスメートを気にかけるだけだった。

 それから、毎日こんな調子だった。拓真は性懲りもなく光希に寄り付き、光希はそれを払いのけた。くる日もくる日もそんな事を続けていたら光希の中に生まれていた一つの疑問が大きくなって行った。
「ねえ、藤川君。いつも僕と一緒にいるけどさ、他の友達のところ行かなくていいわけ?」
出来るだけ日常会話のように聞き出そうと思った。最近の光希は拓真に対して興味が湧いている。
「ていうか、ずっと言おう言おうって思ってたんだけどさ。苗字じゃなくて名前で呼べよ。何その一線引いてる感じ。寂しいじゃんか!」
「はいはい。拓真君。」
交わされた。まあ触れられたくないならほっとくだけだ。いつもならそう考えた光希の脳が面白くないと感じていることに光希自身、
驚きを隠せなかった。いつか核心を暴いてやろうと思ったのは自分だけの秘密にしておく。

 「俺の頑張り次第」言葉通り、拓真の行動力は日に日に増して行った。光希の周りにいじめっ子が現れることも無ければ、一人になることも少なくなった。それは光希にとって新たな感情を生み出すきっかけを作っていった。
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