そのとき僕は


 だけど今日はブカブカの服なんかではなく、ちゃんと体に合った服を着ているようだった。頭にはキャスケットがお洒落に被られ、長くてまっすぐな足にはヒールブーツ。

 何と、小さなハンドバッグまで持っていた。

 それは今までの儚そうな、もしかしたら幽霊さんですか?って雰囲気は全くなく、駅前にいけば大量に歩いている現代の女子大生そのものだった。

 はあ、はあ、と呼吸を乱して、僕は桜の木に到着する。

 彼女は、あの薄い色の瞳を細めてにっこりと笑った。

「初めて待ち人が来たわ。やっぱり、ここにおみくじくくりつけるので良かったのよね、きっと」

「は?」

 腕で汗をぬぐう。僕はちょっとばかり混乱して、彼女をじっと見詰めていた。

「待ち人?」

 彼女はニコニコと頷く。

「そうそう、今日の待ち人はあなたのことよ。もしかしたら会えるかも~って思ってたんだけど、ここにきて15分で会えるなんて凄いよね」

 ・・・えと、僕?

 また垂れてきた汗をぬぐって、貰った情報を整理する。彼女は今日ここにきた。僕に会えるかなと思っていた。そしたら、本当に本人がやってきた――――――

「・・・桜が散ったから、こなくなったの?僕はまだ暫く通ったんだ、ここに」

 気の利いた返事が見当たらなくて、とりあえずと口を開いたらそんな言葉が出てきた。おっと、つい責めるような口調になってしまった。


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