そのとき僕は


 だけど彼女は気にしてないようだった。そうだよーって笑っている。

「桜が咲いている間じゃないと意味がなくてね。ずっと待ってる人達は結局、今年も来なかったけど」

「だって」

「え?」

 だって・・・。僕はちらりと枝にくくりつけられたままのおみくじ達を見る。待ち人――――来ず、そんなばかりのおみくじじゃなかったと、思うし。中には遅れても来るとか、そんなのもあったはず。

 僕の視線を辿ったようだった。くるりと振り返った彼女は、少しばかり睨んでいる。

「見たのね、あれ」

「・・・うん」

「折角くくったのに!」

「・・・ええと、すみません」

 何だか理不尽な気持ちではあったが、取り合えず僕は頭を下げる。まあ盗み見は、盗み見・・・だよな。そうだよな。

 彼女は桜の木を見上げて、あっさりと、軽い口調で言った。

「お母さんとお姉ちゃんを待ってたの」

「え?」

 急に言われて僕は理解が追いつかない。首を傾げる僕に、彼女はゆっくりと説明しだした。



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