そのとき僕は
「あの遊園地に家族で行ったの。最後にって。一日楽しく遊んで、はしゃぎまくって、あたしは急流滑りでびしょ濡れになって、仕方なく園の中で買った大きな服を着ていた。家族はぶかぶかの服をきているあたしを見て笑っていたの。服に溺れてるみたいよって言ってさ。・・・だから、二人は覚えてるだろうって思って」
体に合わない服の理由はそれだったのか。僕は返事をせずに頷くだけにした。彼女は僕の方なんかみちゃいなかったけれど。
「ここで、バイバイしたんだ。お母さんとお姉ちゃんと抱き合った。元気でねって言って、皆泣いて。膨れたかったし、拗ねたかった。どうして家族がバラバラになるのかよく判らなかった。だけど泣くよりは、笑う方がいい、お母さんの笑顔がまだ見たい、そう思って――――――桜を食べたりね、したの」
ほら、こうやって。彼女はするりと手を伸ばし、今は葉がついているあたりから花びらを一枚ちぎる真似をする。
「・・・食べた?」
「そう。ブカブカの服で笑ってくれた。だからちょっとおかしなことをしようと思った・・・んだと思うわ、まだ小さくて、あたしは。とにかく桜を食べてたの。むしゃむしゃとたくさん口に突っ込んでねー」
リアルに想像してしまった。・・・桜を食べる?そんなこと、考えたことなかったな。
「・・・家族は笑ってくれたの?」
「うん」
彼女がにっこり微笑んだ。
「おかしな子ねって。ちょっとピエロの気持ちが判ったかも、あたし。それからあたしはお父さんと帰った。二人はそのまま空港へ。それで―――――――――ずっと・・・会えてないのよ」