そのとき僕は
風が吹いてくる。
小さな彼女の声が吹き飛んでしまうかも。そう思って、僕は少しだけ、二人の間の距離を縮めた。
「お父さんはその後で再婚して、新しいママがきたし、やっぱり外国は遠くって・・・音沙汰なくてねー」
「新しいお母さんとうまくいってないの?」
ちょっとばかり勇気をかき集めてそう聞く。だから、実の母や姉と会いたがっているのかなと思ったのだ。
すると彼女は明るい笑顔で即座に否定した。
「ううん、大丈夫よ。新しいママもいい人で、仲良くやってる。お父さんと二人の時もそれなりに幸せだったし、何かに困ったことはないのよ。でも、ほら・・・」
指をくるくると空中で回していた。
「初潮がきた時とか・・・好きな人に振られたとか、ね。やっぱり会いたいと思う時があるのよ。それで、3年前に一度、父に手紙が来たの。机の引き出しに仕舞ってあったのを見てしまった。差出人は母の兄で、元気にしてるかとか、そういうの。母はまだ仕事でこちらにくることもある。姉が同行することもある。また家族で会ってみないか、そう書いてあった」
彼女はそこで口を止めてしまった。僕達はしばらく無言で立っていて、強くなってきていた日差しを膝の裏に感じていた。
「・・・それでも会えなかったの?」
僕がそう聞く。彼女はちらりと僕を見て、曖昧な笑顔を作る。
「父は、あたしに教えてくれなかった。もうこっちは新しく家族を作っているって思ったのかも。新しいママに悪いって遠慮したのかも。それは判らないけど・・・とにかく、あたしはその手紙は知らないままでいるはずだった。だから思いついたんだよ」