そのとき僕は
僕にもわかった。その時のこの人の考えが。
「ブカブカの服で、ここで待つ?」
「そうそう。あの時のあたしが成長した、体が大きくなったってだけの感じで。そうしたら―――――――もしかして母達がこの街にきて、寄ってくれたら・・・・思い出すでしょ?」
あたしだって、判るでしょ?
胸のところがちりちりした。
僕にはそんな痛い、切ない記憶などない。だから想像するしかないのだけれど、それでもやっぱり彼女の気持ちなんか僕には判らない。
だけど彼女は悲しそうではなかった。あっさりとした表情で、明るく眉間を開いている。あの灰色の瞳は、やはりハーフだからだったのだな、僕はそう思って一人で頷いた。
「何回か、きてたのよ。今までも。だけど会えなくて、それはそれで仕方ないって思ってた。だけど、今年は最後だから。だから、もう一回だけ、この桜の時期だけはやってみようって思ったの」
斜めに被ったキャスケットをパッと脱いで、彼女は短い毛先を指で引っ張った。
「だから髪も当時の長さにわざわざ切ってさ。・・・何だか、あたし、男の子みたいだったよね?服装があれで髪がこれだと」
「あ、うん。最初は寝てる少年がいるって思ったんだ、僕も」
「あら」
「でも寒そうだからって見に来て、え、この人もしかして女?!みたいな」
「うーん、確かに初めて会ったときは、やたらと驚いてたよねえ~」
だって。自分を襲いにきた男か!?なんて思われても仕方ないようなシチュエーションだったから。その言い訳は口の中で潰した。別に聞かせなきゃならないことなどないし。
彼女は機嫌よさそうにケラケラと笑う。