BitteR SweeT StrawberrY
「ガクはアタシに、そういうの吐き出してもらいたいとか思ってるんだろうけど・・・
無理だよ。もう自動的に処理するような作りになってんだ、アタシの頭」

「泣けるほど変わってないな・・・ほんとに、おまえは・・・
仕事続けてる限り、おまえはまた走らないといけないんだ。
休む暇もないんだよ。
立場上、責任があるから、数字だって考えないといけない、客のことも従業員のことも考えないとけない。
だから・・・そんな体だからこそ・・・休めよ・・・
いや・・・休んでくれ・・・・頼む・・・」

佐野さんは、本当に、切実で真剣な響きのする声でそう言った。
聞いているあたしが、切なくなるぐらい、胸がぎゅうって痛くなるぐらい・・・
ほんとに心の底から、佐野さんがそう言ってること、あたしにだって判る。
その真剣な思いは、ケイにも届いてるらしく、ケイは、しばらく黙った。

やったらいけないことだって判ってたけど・・・
気になって・・・
不安になって・・・
ケイがどんな顔をしてるのか・・・
知りたくて・・・
いけないことだって判ってるけど・・・
ほんの少しだけ・・・
あたしは、ドアを開けてしまう・・・

僅かな隙間から見える病室の中も、すごく静かだった。
佐野さんは、椅子に座ったまま、ベッド脇にもたれるような姿勢をとって、真剣な表情で、ベッドの上のケイを見つめている。
ケイは、おでこに片腕を押し当てて、少し横を向いたまま、何かを考えこむように黙っていた。
そんなケイには、どこか女性らしいはかなさがあって、その顔は、切なくて、寂しそうな表情に彩られていて・・・
それは、あたしには見せてくれない、ケイの女性としてのもう一つの顔なんだと思う。
ケイに、こんな顔をさせる佐野さんは、やっぱり、ケイにとっても特別な存在なんだなって、あたしはそう思った。

だけど、そう思えばそう思うほど、あたしの心はざわめいて、不安になって、苦しくなってくる。
息が出来なくなるんじゃないかって思うほど、あたしは、胸が痛くなって、ぎゅって唇を噛み締めてしまった。
ケイは・・・横を向いたまま、静かな声で、佐野さんに言う。

「ガクはずるいな・・・アタシが弱ってるときに、そんなこと言って・・・
どう答えたらいいか・・・わかんなくなる・・・
結局また、あの時と同じ選択肢じゃないか・・・」

「おまえが仕事好きで、仕事が生きがいで、仕事に誇りを持ってて、そうやって何があっても、おまえが自分を支えてきたことぐらい、わかってんだよ・・・
付き合い長いんだから、俺だって、そんぐらい判るべ・・・
だけど・・・もうそれじゃ、体もたないんだから・・・
俺に寄りかかってくれって・・・そう言ってんだよ」

「あの時は・・・それが無理だから、リセットしようって言った」

「今はそういう関係じゃないから、リセットのしようもない・・・」

佐野さんはちょっとだけ、愉快そうに笑って、大きな掌で、ケイの髪を撫でる。
ケイは、おでこに片腕を押し付けたまま、唇だけで切なそうに笑った。
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