犬との童話な毎日
無言で黒曜の背中を見つめていたあたしの耳に沙月ちゃんの囁き声が聞こえた。
「何となく、だけどあの人、赤ちゃんの事、望んでなかったんじゃないかな……」
『母から離れたい、と泣いている』
沙月ちゃんの言葉を選んで喋る声に、黒曜の声も重なった。
***
「ねぇ、お母さん」
スクバをリビングのソファに落としてキッチンを振り返る。
「んー?何ー?」
お母さんが、リズミカルにまな板の上でキャベツを刻みながら、間延びした返事をした。
あたしが沙月ちゃんの入院している産婦人科を出て、家に帰り着いたのはもう薄暗がりの中、6時頃だった。