風の詩ーー君に届け
7章/……心があるから
「周桜くん、もういいの?」




喫茶店「モルダウ」――学生がピアノを弾いている。



病室に郁子が訪れて数日後、詩月は何事もなかったように席についた。




「ああ、……濡れなかったか?」



「ええ、傘をさして駅まで走った……」





郁子はハッとして詩月を見る。




「どうかしたか?」




「ううん……、Nフィルあるの?」





「コンサートが近いから」




胸元に向けられた郁子の視線を感じ、詩月は素っ気なく言う。




「チケットだ。少し早いが……」


楽譜を入れたファイルから封筒を取り出し、郁子に差し出す。




「ありがとう」




満面の笑みに詩月の胸が逸る。




「ポスターのお礼だから」



詩月はポーカーフェイスを決め込む。


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