風の詩ーー君に届け
8章/頼りないオルフェウス
早朝。


詩月のスマホがバイブした。



玄関を出て、母親の運転する車に乗り込んだ時だった。



昨日。

詩月が帰宅すると、母親は週刊誌の記事が書かれたページを広げていた。



関節が曲がり変形した指を見つめる母親の、寂しく辛そうな顔。



「因果関係なんて、何の確証もない。こんな三流記事……」



詩月は週刊誌を取り上げ、母親の変形した指をさすった。



「僕はこの指の奏でる音が好きだ。

指のこと、痛み止めの薬、……いつまでも自分を責めるのは止めなよ。

母さんの音は僕が引き継ぐから」



何も言わずに、詩月の手を包みこみ、笑顔を作ろうとする母親。




詩月は言葉にできない思いをヴァイオリンの音色に託し、「防人の歌」を奏でた。





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