風の詩ーー君に届け
ノスタルジックな調べ、望郷の切なく優しい響き、主の居ない席を見つめる。




奏でたのはチャイコフスキーのヴァイオリン曲、「懐かしい土地の思い出」。




ヴァイオリンの元師匠リリィとスタンウェイの上で寛ぐ白猫、そして元師匠の愛した人アランを繋ぎ止め、僕自身に音楽の楽しさを教えてくれた曲だ。




1人電車に乗り、白猫を追跡し、鶴岡八幡宮まで出かけた昨秋からすると、環境がかなり変わった。






手にしたヴァイオリンは母の思い宿る「ガタニーニ」。


深く艶のある優しい音と低音部の独特の響きが曲を奏でる。




「今日のチャイコフスキーは、いつもより思いがこもっている」



カウンターからマスターの声が微かに聞こえた。






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