風の詩ーー君に届け
この音色、この演奏に音を重ねる!?



安坂の指が強張る。



この音色にケチをつけ、苛めている奴等がいるなんて、憐れな奴等だなと改めて思う。




詩月の奏でるヴァイオリンの優しく艶のある音色が、オフィス街に吹き抜ける風のように響く。




ガダニーニ作「シレーナ」――半人半鳥の妖女の名を冠した名器が、詩月の指を介し奏でられる音色。

夕方の慌ただしささえ、忘れてしまうほどだ。




駅へと急ぐ会社員、スーツ姿の女性たち、流行りの衣装で身を飾った若者たちが、詩月のヴァイオリンにふと、歩く速度を緩め振り返り、演奏に聞き入り、足を止める。




しだいに、詩月の周りに人垣が重なっていく。





春先から流れ始めた化粧品会社のCM。

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