忠犬カノジョとご主人様
個室の落ち着いた居酒屋で、お互いに軽く自己紹介をしてドリンクを頼んだ。
双葉さんは俺の斜め前の席に座っている。もうそろそろ夏ということもあり、皆薄着で、双葉さんも白いコットン素材のブラウスにスキニーにサンダルという格好だった。まじで可愛い。
俺は初めて見る双葉さんの私服と、昨日の今日でこうして再会してしまったことにたいする奇跡と期待とドキドキが混ざって、倒れてしまいそうだった。
「ちょ、どうする皆美人じゃね? とくに双葉さん」
友人の小竹がつついて耳打ちしてきた。お前も双葉さん狙いかよ! 俺は焦りながらもそれを悟られないように必死だった。
「八神君飲むのはやいね~」
「いやちょっと喉乾いちゃってすみません」
俺はレモンサワーをもう一杯頼んで心を落ちつかせた。
そんなことをしてる間に隣の小竹は前に座ってる双葉さんにガンガン質問攻めをし始めた。
「そういや双葉さんって、保険会社に就職決まったんですよね?」
「あ、うん。そうなの! 唯一内定貰えて」
「すごいなあ、僕も保険会社に勤めたいなって思ってるんです。尊敬します」
「いやいや、尊敬だなんて! 私は本当にまぐれで入れただけだからさ!」
「クルミさんが嫌じゃなければ色々お話聞きたいです、今度どこかで」
小竹将来は金融関係目指すって言ってたじゃねーか!!
これが合コンという名の戦場か……。
俺は隣の小竹の話術に感心し切っていた。感心してる場合ではないのに。
でも小竹が双葉さんにばっかり話しかけるのも失礼な気がして、俺は皆に共通して質問できることを話題にして、なんとかその場を取り繕うことで精一杯だった。
「好きなタイプかあ、そうだなあ、お金持ちかな、っていうのは冗談で~」
いや、今目がまじだったこの女の人。
「やっぱり優しい人かなあ」
嘘だ絶対。
「私は好きになった人がかタイプかなあ」
こいつはビッチだ。
「塩顔でオシャレな人かなあ~、カジュアルめだけど綺麗めな感じで~」
よく分からないけど多分こいつもビッチ。