【完】私と先生~私の初恋~
実家に向かう車の中で、私は不安と緊張で押しつぶされそうになっていた。


先生はラジオから聞こえる曲に合わせて、のん気に鼻歌を歌っている。


このまま家に誰も居ないとか…ないかなぁ…


そんな事を考えていると、車はあっという間に実家に到着した。


「さ、行きましょうか。」


そう言われてドキドキしながら車を降りる。

実家のドアに手を掛けると、私は暫らく固まってしまった。


先生がノブを握っている私の手の上に、後ろからスッと自分の手を乗せる。


「大丈夫だから。ね?」


私は頷くと、そっと静かに扉を開けた。


相変わらず、テレビの音だけが聞こえる。


私はゆっくり靴を脱ぐと、先生が入って来た事を確かめてからリビングに進んだ。


「…お母さん…」


私がそう声をかけると、相変わらず酒瓶に囲まれて横になっていた母は、かったるそうにこちらを見た。

そして私だと解ると、なにやらギャーギャー叫びながら物凄い速さで立ち上がり私に向かってくる。

ビクッとして身構えると、私は凄い力で後ろに引っ張られた。


驚いて硬直したまま、恐る恐る前を見る。


後ろにいたはずの先生が、母の振り上げた両手をがっしりと掴んでいた。


先生の体越しに、先生を見つめている母のひどく驚いた顔が見えた。


「…お邪魔します。」


いつものようにニコニコしてるであろう先生の声がした。


腕を掴んだまま先生はジリジリと前に進み、ダイニングテーブルの椅子に母をドスッと座らせる。


母はよっぽど驚いたのか、抵抗する事無く大人しく椅子に座っていた。


先生は座っている母から2.3歩後ずさると、ゆっくりと板の間に正座をした。


「さて……早苗さん、そこの紙袋持ってきて。」


そう言いながら私に振り返り、自分の隣の床をポンポンと叩く。


私は慌てて紙袋を取ると、先生の横におひざまを付いた。


何やらずっしり重たい紙袋を渡しながら、先生の顔をそっと見る。


相変わらずニコニコしている先生は、


「ありがとう」と言うと真っ直ぐ母に向きなおした。
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