【完】私と先生~私の初恋~
「〇〇さん、怖いですからね。


このまま彼女が居なくなってしまったら、何をされるかわからない。」


母は怯えた顔をして床を眺めている。


「…幾ら、頂いたんですか?


それさえ返せば、もうアナタが困る理由は何処にも無くなります。」


だが、母は黙ったまま答えない。


先生はまた大きく溜め息をつくと、持ってきた紙袋を母の前に差し出した。


「2千万入っています。


お嬢さんを戴きに来た手前、結納金だと思って持って来ました。」


2千万!?


私と母は驚いて先生を見た。


先生は相変わらず冷ややかに微笑みながら、母だけをじっと見つめていた。


「いくらなんでも、それだけあれば借金返せますよね?」


母は呆然としながら、小さくコクリと頷いた。


「日取りの取り決めも無く、勝手に持ってきてしまい恐縮ですが、どうぞお納めください。」


先生が頭を下げる。


私は慌てて止めに入った。


「先生ダメです!そんな大金…」


「ダメじゃありません。


これは結納金なんですから、普通の事ですよ。」


私を遮るように強く言うと、先生はニコッと微笑んだ。


でもすぐ冷ややかな笑顔になって、また母をじっと見つめる。


「それにこれだけあれば、当面は生活していけますね?


アナタは僕とさほど歳も変わらない。


まだいくらだってやり直しがきくでしょう。」


母は何も答えない。
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