【完】私と先生~私の初恋~
「正直、僕はアナタが許せません。


でも早苗さんにとっては大事な母親のようです。


このまま捨てるように逃げても彼女はずっと後悔し続けるでしょう。


だから僕はアナタが憎くても憎みきれないし、捨てたくても見捨てられないんですよ。」


自分でも気がつかない振りをしていた本心を見透かされて、私の胸は何故だかグッと痛んだ。


黙り込んでいる母に目をやると、母も複雑な表情で私を見つめていた。


「…それで身の回りを整理して…やっていけますね?」


先生が言い聞かせるように言うと、母は微かにコクリと頷いた。


母が頷くと、先生はやっといつもの顔に戻った。


「じゃあ、これでもう大丈夫ですね。……早苗さん。」


急に名前を呼ばれて、私は慌てて返事をした。


「自分の荷物をまとめなさい。それから…」


先生は正座のまま、辺りをぐるりと見渡す。


「少しだけ、ココを片付けてあげなさい。


このままじゃ、いくらなんでも酷い有様ですから。」


え?っと思って先生を見る。


相変わらず穏やかにニコニコ笑っている先生の顔を見ていたら、私の心も不思議と穏やかになっていく。


私は呆けている母をチラリと見ると、ハイと微笑み返した。


「それじゃあ僕はちょっとだけ出掛けて来ます。


すぐに戻りますから、その間にやっておいてくださいね。」


そういうと先生は、床に置いてある紙袋から見た事の無い大きい札束を取り出し、そそくさと玄関の方に歩いてく。
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