春
優輝さんに見せられたメールには、こう書かれていた。
ーー久しぶりに女に惚れたかも。
さっき話した葵を大切にしたい。
これから先辛いことたくさんあるかもしれんけど、経験させたくない。
辛い思いさせたくない。
どうしたらええ?
俺真面目やないし、クソ野郎やし。
まだ会って数日やで。
ほんまにどうしよう。
会いたくてしゃあない。
優輝さん宛に送られたメール。
この人の作り話なんじゃないかと思ったけど、ちゃんと光のアドレスが記載されていた。
「そんな…」
照れたんじゃなくて。
嘘っぽくて笑った。
だって、展開早すぎるでしょ。
「本当だと思うけどなぁ」
スマホをしまいながらため息交じりに言った優輝さん。
「ていうか、なんで大阪弁と標準語がごっちゃなんですか?」
完全に今とは関係ない話題を持ち込んだ。
もしかしたらあたしの方がKYなのかもしれない。
でも、優輝さんはちゃんと答えてくれた。
「俺はねー。
東京から大阪に引っ越した身分だから。
光は大阪生まれの大阪育ちだけど、あいつの父親が厳しい人でさ。
大阪弁は汚いからやめなさいって言われてたらしい。
だけどさ、環境が環境じゃん。
無理もあるわけよ。
だから中途半端になったんだって」
思い出すように上を見ながら話してくれた優輝さん。
「へぇ…そうだったんですか…」
それしか言いようがなくて。
少しの沈黙が続いた。
「え、でも、転々としてるって」
「あぁ、大阪育ちではないな。
ほぼ大阪。
兵庫とか高知にも行ってた」
「てかさ。
葵ちゃん、なんで敬語なの?」
あたしが返事をする間もなく。
「え、だって初対面だし…」
優輝さんも新しい話題を振ってきた。
「いいじゃん、タメなんだし。そんな堅苦しくしないでよ」
「いや、でも…」
「光だけ特別?」
「えっ」
「それならそれでいいけど」
「いや、違いますから!」
「ふぅん」
どうやら信じてもらえていないらしい。
でも、本当になんでだろう。
光だけは別に、違和感なくタメ口で話せる。
「ねぇ、葵ちゃん」
「はい?」
またしても沈黙に落ちたあたしたちだったが、優輝さんが話しかけてきた。
「アドレス交換しようよ。SNSもやってるんでしょ、友達になろ」
「あ…はい」
考える前にアドレスを交換し、友達登録をしてしまった。
「サンキュ。
って、そんな不安そうな顔しないでよ。別に悪用したりしないから」
えっ、あたしそんな顔してた!?
「そんなこと思ってないですよ…」
「そっ。
じゃあ、帰るか。
送ってあげようか?」
「いやいや、建前なんでしょ…」
「そうだけど」
「大丈夫です」
「ふーん。じゃあね」
優しい顔で笑って光の家のドアを開けようとした優輝さんに、今度はあたしから話しかけた。
「あ、いつまでいるんですか?」
「さぁ?光の機嫌が保つまで」
優しい顔からイタズラっ子のような顔になった優輝さん。
「どういうことですか?」
まったくわけが分からない。
「そのままだよ。そんなに気になるなら帰る時メールするよ」
「あ、いや、そうじゃなくて…」
「光の家に遊びに行きたいってこと?」
優輝さんはドアノブから手を離してわざとっぽく驚いた顔をした。
「違います!!!」
全力で否定する。
「あはは、図星か。
いいじゃん、テキトーに来れば」
図星じゃないし。
そんなの嫌に決まってる…。
もう既に名前忘れちゃったけど、チャラチャラの人もいたし…。
「…無理です」
「なんでよ?明美みたいな暴力的なやつはいないよ?多分」
多分ってなによ!
余計不安じゃん!
「本当に、結構ですので」
「あっ、そ。じゃ、またね」
そう言ってフイッと光の家に入ってしまった。
なんかあたし、取り残された感MAXなんだけど…。
家に帰って、優輝さんのことを思い浮かべた。
最初に見た時から感じていた、不思議な感じがなんとなく分かった気がした。
あの人は、距離が近いように見せかけて。
とてもとても遠い人だと思った。
笑っていても、心から笑っているようには見えなくて。
冗談っぽく言って仲良く見せても、本当は冗談を言うほど楽しんでなさそうで。
ふざけているようにも見えたけど、今話してみたら、誰よりも冷静で誰よりも考えていて。
だけどその分。
誰よりも冷たい人。
そう思った。