彼はお笑い芸人さん


「すみませんっ、大変お待たせしました」

 息切れしながら、バッグから取り出した書類封筒を両手で差し出し、頭を下げる。
 パソコン仕事の手を止めて、課長はそれを引き取ると、

「お疲れさん。以後気を付けるように」

 射抜くような鋭い瞳で見て、言った。
 う、怖い。けど私が悪い。

「はい、申し訳ございませんでした。あの、今から確認作業されるんでしたら、私も一緒に……」

「いい。俺が確認する」

 ピシャリと言って、課長はふいと視線を他に向けた。

「それより、晩飯。そこにある弁当、好きな方選べ」

――え?

 課長の視線の先には、コンビニ袋が置いてあった。
 お弁当とお茶が入っている。

 嘘っ、まさか課長が

「買って来て下さったんですか」

「ああ、ついでだ。部下を走らせておいて、先に晩飯食ってるわけにはいかないだろう。食べて帰れ。じゃないと俺が食えない」

 素っ気なく答える課長に、胸アツ。

 課長おおおお~!!
 と叫びたいところだけど、そういう空気でもない。

「ありがとうございます……では、頂いて帰ります。課長も一緒に……」

「ああ」



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