彼方の蒼
◇ ◇ ◇
倉井先生と初めて顔を合わせたのは、一年の美術の授業のとき。
他の教科はぱっとしなかったけれど絵を描くのだけは得意だった僕は、とにかく美術の先生に褒められたかった。
このあいだまで小学生だったガキでもこんな絵が描けるんだと驚かせたかった。
先生が視界の端にいようと、見えない場所にいようと、僕は気配を嗅ぎ付けてどこから攻められても対応できる超人みたいに神経を張り巡らせていた。
それでいて近づいてきた先生が画板の上の画用紙に目を落とそうものなら、即座に身体が固まって、たとえ話しかけられたとしても満足に返事もできなかったんじゃないかってくらいに意識していた。
今からではとても考えられないよな。
倉井先生もあのときの生徒が僕だって実は気づいていないかも。
まあさすがにそれは、ないか。
倉井先生は一度として僕の絵を褒めなかった。
僕よりも観察が足りなくてなんとも言い難い大雑把な描きかたの他の生徒には、具体的に指で示して、このあたりがいいなんて言うくせにだ。
この人、絵には疎いのかなって思った。彫刻や現代芸術が専門とか。
この無反応ぶりはそうとしか考えられなかった。
クラスのヤツらは僕の肩口から絵を覗きこんでは幼稚な言葉で大袈裟に騒いだ。
いくら誉めそやされても、欲しい人からの声は一向にない。
いい気分にはなれなかった。
やがて、超うめーとあっさり言うヤツほど適当な絵を描いていることに気づく。
僕が見ても繊細な描写をするような子は静かにひとこと言うとか、質問をしてくるとか、そうでなければ黙ったままため息を漏らすかのどれかだった。