彼方の蒼

   ◇   ◇   ◇

 指揮者から一度目を外し、館内に視線を泳がせる。
 今日の倉井先生は髪を後ろでまとめあげ、今様色の無地の着物に濃紺の袴という正装だった。
 持ちまえの清楚さが際立つ装いは、探すまでもなく目に飛び込んでくる。
 卒業生の担任席にその姿はあった。
 倉井先生の小さいその口が控えめに動いている。
 一緒に練習したほうの歌だから歌えるんだ。
 
 ああもう、誰か気づけよ。
 そんな狭いとこで口パクで参加しているその人をこっちへ連れてこいよ!

 もういっそ、僕が段の裏を回りこんであっちまで行ってやろうかと本気で考えた、そのときだ。


 女子の端からひとりが外れて、動いた。
 はじめからそうする手筈だったようになんの違和感もない自然な振る舞いで倉井先生の手を取ると、自分の元いた位置の真横に連れてきた。

 誰か知らないけど僕の念を受けて行動してくれてありがとう!
 君は最高だ! 誰か知らないけど!
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