彼方の蒼

「内山」
 舞台から卒業生の席へと戻るときに確かめた横顔にやっぱりと思った。
 歌いながら、そうじゃないかなって気がしていたんだ。
 倉井先生を卒業生と並んで歌わせたのは、うちのクラスの内山だった。

「内山、ありがとう。なんか僕、感無量でもう。もう。なんて言ったらいいのか」

 卒業生退場の演奏に合わせて体育館から出たあと、列を崩して教室まで流れていく人並を縫いわけて突き進み、僕は感謝を伝えた。

「惣山くんのためじゃないから」

 口では言いつつも、僕に言われて感情が高ぶった部分はあるみたいだ。
 あっという間にぶわっと目に涙が浮かんで、そうなった本人が一番慌てていた。
 好奇の目にさらされないように壁際に寄せてやると、内山のほうも少し上に視線を向けるというわずかな動作だけで、泣くのを堪えてみせた。

「他の先生に怒られたら惣山くんのせいにすればいい」
「は?」
「って、今日子ちゃん言ってたし」
「今日子ちゃん? あ、堀柴サンか」

 さすが。
 その堀柴サンは集団の先にいるようだ。
 あの人にもひとこと言ってやらねば。

「でも、緊張した。ピアノ弾くより緊張した」
 内山は濡れた目をしたままふっと息を吐いて笑ってみせた。

 こいつって実はいいヤツかも、と思ったのも束の間、今度はこんなことを言いだした。

「あと、今さっき惣山くんに呼び止められたときも緊張した」

「なんで?」

「怒りの導火線がどこにあるのかわかんないから。殴られるかと思った。怖い」

 身をすくめてみせているのは冗談だよな?
 僕だって乱闘ネタがこんなに尾を引くとは思わなかったよ。
 忘れてよ、頼むから!
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