彼方の蒼

   ◇   ◇   ◇


「で、どうしよっか」

 3月とはいえ今年の春はのんびりしている。
 桜もまだ僕らの目を楽しませてはくれなくて、蕾の気配だけを漂わせていた。
 おかげで校舎の裏手にある川を臨む土手には先客はなく、僕と倉井先生とで眺めを独占できた。

「来月には僕は倉井先生の元・教え子になるから、今までみたいな遠慮はいらないよね。つきあってるのがばれたら退学だとか先生がクビにされるとか、そういう心配がなくなる」
 
 川面から照り返されるやわらかな白い光が眩しくて、目を細めたくなる。
 春は近くまできている。

「順当にいけば僕は高校生になっているはずだ。うん。きっとなってる。自由恋愛解禁!」

 僕の言っている意味がわからないはずもないだろうに、倉井先生はさっきから黙ったままだ。

「どうする? どうする?」

 右から左から、顔を覗きこんでみた。

「僕ら、つきあっちゃう!?」

 勢いで着物の袖から覗く指先をつかみ、両手を繋ぐ。
 簡単なことだよ。先生。
 うん、とひとつ頷けばいいんだ。
< 124 / 148 >

この作品をシェア

pagetop