彼方の蒼

「もともと私は油絵をやっていました。それ一本でやっていく覚悟もなくて、就職活動の一環として中学校の美術教師の資格を取ったくらいです。なにかの役に立つかもしれないと思っただけで、そのときは教師になるつもりはありませんでした」

 どうしてそんな話を僕にするんだろう。
 面食らったまま、僕は耳を傾ける。


「採用試験にも受かりました。そうなると、画家か教師か、どちらかを選ばなければならないと感じました。両立といえば聞こえはいいですが、画家の道が閉ざされたときの保険として生徒に絵を教えるようでは軽薄だと思ったからです。私が選んだのがどちらか、言わなくてもわかりますよね」

 倉井先生が選んだのは美術教師のほうだった。
 そういえば僕は倉井先生がどんな絵を描くのか全く知らない。

「絵を諦めた気でいました。でも少しまえから、諦めたはずだと自問自答をしていました。まだやれるはずだと見苦しくも主張する若くて青い自分がいて、見たくなくても見えてしまう。誰にも言えなくて苦しかったし、諦めるしかないんだと言い聞かせていました」

「描いちゃえばいいのに」

 僕は初めて口を挟んだ。
 諦めるしかないとか、僕には理解できない感覚だった。
 趣味で続けることのどこがいけないんだろう。
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