彼方の蒼
4.持つべきものは友!
 翌日、学校はたいへんな騒ぎになっていた。

 教室に入るとすぐに、何人かのクラスメイトが駆け寄ってきた。僕が来るのをずっと待っていたようだ。挨拶もなしに、口々に言った。
「春都、おまえは知ってたのか?」
「倉井先生が……」
「あ、その顔だと知らないな」
「実はさ……」
 僕は説明とも噂ともつかない話を聞いた――相槌さえ打てずに。
 途中、女子が邪魔した。
「やめなさいよ! ホントかどうか、わかんないんだから!」
 その女子を、僕が制止した。

 落ち着いているように見えた、とカンちゃんはあとで言った。
 真相は、全然違う。身動きひとつとれなかっただけだ。
 ショートホームルームに教壇に現れたのは、学年主任だった。
 倉井先生の姿のないまま、一日がはじまった。
 

 休み時間中に、様子を見にいこうと思った。授業をさぼろうかと思った。
 今までの僕なら、とっくにそうしてる。
 真っ先に会いにいって、聞きたいことを聞いて、それから――。

「惣山君、具合悪いの?」
 隣の席の井上さんが、教科書を机から出しながら、声をかけてきた。
「別に」
「……本当にどうしたの? なんか変」
 答えなかった。
 隣にいながら雑談したことのないクラスメイトでさえ、僕を心配してくれる。
 頭を抱え込むようにして、頬杖をついた。
 びっくりするくらい、両手が冷たい。

 机の脚と椅子の脚と床だけだった僕の視界に、小柳と書かれた上履きが現れた。
「ハル」
 その瞬間、少しだけ、教室の空気が変わった気がした。
 僕はうつむいたままだったけど、いくつかの視線がこちら向きであることに気づいていた。
「直接、聞いてきたほうがいい」
 顔をあげると、カンちゃんが僕を見おろしていた。
 笑ったり、悲しげだったり、そういった感情の一切を殺して、じっと見ていた。
 それでも僕は動けなくって、目を逸らしたんだけど、教室のどの方向を向いても誰かしら僕を気にしているような気がして、ますます体が固まってしまった。
「ハル、行ってこいって!」
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