印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1974年1月24日 相変わらず蒸し暑い。
蚊はいるし、朝っぱらから車の音はうっせえし。
 
ったく、タイ人ってのは宵っぱれのくせに朝も早え。

しょうがねえ。 起きて床の女またいでシャワー。
さ きょうはタイソンへ移動すんぞ。

おい、起きろよ。俺チェックアウトするぞ。
朝飯奢ってやっから、起きろ。

おねえちゃんとイモートと向かいの屋台で魚の麺食って、
じゃあな。 またいい日本人のカモ見つけろよ。

「はーい さよなら ありがと」

カモじゃなくなったらあっさりしたもんだ。へへ。



こんちわ!  勝手知ったるタイソングリットへ。
2階の米山さんの部屋に直行。

すいません朝っぱらから。ところで米山さん明日帰国でしょ。
俺、後釜でこの部屋に入っていいっすか?

「ああ、勿論いいよ。今日から泊っとけよ。ここは金さえ
入れば問題ない」 

おお、ありがたい。 今日だけ床だけど、まいい。
1泊分50バーツ浮いた。 ひっひ
 
米山さん、帰国の安いチケット探してエージェンシーを
何か所もあたって、いいとこ見つけたって。
 
「そこ通って195$が160になった。毎日通えば安くなる。
信じられないだろ、でもバンコクじゃあそういうこと。はは」
 
へえ。 じゃその店紹介してくださいよ。

「いいよ。11時からだから一服して行こか」 

ヒッピー情報は日本まで230$。
250は予定してたから160だったら最高じゃん。

ところで米山さん、昨日もおとといもね、同じ女が部屋に来てさ
・・・タイの女って、結構混じってますね。
中国系多いけど、いいのは結構いいっすよね。 へへ

「ベトナム戦争でアメリカが相当入ってきてるから、将来は
アメリカの混血が増えるかもね。 はっは」

そうっすか。

「タイはさ、占領されてないんだよな。この辺のベトナムやラオス
カンボジアもフランスの植民地だろ。ビルマとマレーはイギリス
にやられて内戦して独立しただろ。」

へえ、詳しいですね。

「でも、タイだけはずっとタイだろ」 

だろって・・・俺は知らない。
何見たって聞いたって、綺麗、すげえ、ただそんだけ。
やっぱ歴史勉強しときゃよかったな。

「中近東行くなら歴史って最低限だぞ」 

へへへ、言われちゃったよ。

でも占領されてないのにさ、なんで人種混じってんですかね。

「そりゃ分んないよ。政治的に占領されてなくたって、
男と女だしなあ・・」

うーん、分かったような分かんねえような・・・。

そんな話しながら 旅行事務所に着いた。


英語とカタカナで“エアーチケット”の看板。

おやじとおねえちゃんが座ってる。可愛い。
イギリス混じりかな、俺が占領したい。 ひっひっひ

米山さん、タイ語と日本語混じりの英語で、

「元気? サワディーこんちわローンロンね。
こいつさ、羽田までのチケット探してるんだ。
俺居なくなるけどこいつもよろしくね」 

愛想のいいおねえちゃん

「OK。でももう160$は売り切れよ。いまは・・・
190ならあるわよ」

米山さんが耳打ち・・・「だいじょぶだ」

「俺の時と同じセリフだ、通えば何とかなるって。
ここは、おねえちゃんよりおやじだ」

「おねえちゃんは1時から3時まで家に帰る。
でもヒッピー客は時間関係なく来る。
昼休みだって店は閉められない」

ふんふん、なるほど。

「だから、その時間に、ここ手伝うんだ。
お茶入れたり掃除したりさ・・・」

ふえー、そおっすか。そりゃ技有りだね。
手伝って安くなんなら1日中だってやるぜ。っひっひ


「おやじさん、色々世話んなったね。
俺は明日日本に発つけど、こいつが代わりに昼間おやじの
手伝いに来るよ。OKだろ?」

おやじ、無言。

「俺の古い友達だから心配ないよ。160になるまで通うと
思うよ。 はっは」 

おやじ、ニコリともしねえで煙草ふかしてる。だいじょぶか?

「さあ、お茶買いに行くか」

なんだ、自腹で払ってか。そりゃきついな。

「心配すんな。俺の馴染みの屋台だ。そこのおばちゃんに
ちょっとした貸しがあってさ・・」

こういうことだった。

・・・ある日、米山さんがその屋台でラーメンを注文した。
おばちゃんが作ってる時、火傷しちゃった。

そこで、米山さんすぐさまオロナイン出して、リバテープ
張って手当てしてやった。 そんで気前よくオロナインも
あげちゃった。

おばちゃんはもう、感謝感激雨あられ、米山様様、
オロナイン様様。以来すべて半額かタダになったってわけ。

うまくやりやしたね。ひっひ

どんなチャンスもものにする。さすがヒッピー6年。

「おばちゃん、俺あした日本帰るのよ。さみしいよ
キトゥンキトゥン」 

「えーほんと!? うえーん、私もキトゥンキトゥン」

おばちゃんほんとに淋しそうな顔。

ねえ、キトゥンキトゥンてなんすか?

「I miss youだよ」 

ほお、こりゃ使えるな。ヘヘ
 
そんで屋台のおばちゃん紹介してくれて、タダ割引も
引き継いでくれた。

米山さん、ありがとございます。
ついでに、ありがとはなんすか。

「コップンカップだよ」

はいコップンカップです。

お茶2つ、焼きバナナ2本、しめて2バーツ。
米山さんに付き添ってもらい事務所へ。

 
おやじとおねえちゃんに、ハイどーぞ。

おねえちゃんニコッ、おやじもニタニタうなづきながら
お茶を飲む。よっしゃ、安チケット作戦完了だ。

あとは俺の腕次第。ぜーったい160まで粘るぞ。

ところで米山さんはどこでタイ語どこで覚えたの。

「フッフ、おねえちゃんよ。バンコク2週間居て毎日
日本語喋る子と一緒だった。そんで色々教わったよ」 

そうっすか。俺もそうしよ。でも読めるの?

「読めるわけないよ、あんなミミズ」

っはっは、そりゃそうっすね。


米山さんは大使館へ行った。 そうだ、はじめに電話だ。

そういや電話ボックス見たことねえ。タイ人は電話しねえのか。
ったく、じゃしょうがねえ。

さっきの事務所に戻っておやじに頼む。

悪いけど電話かけてくれねえか、ここへ。

おやじ、番号回して俺に渡す。

もしもし? 鳴ってるのに出ねえ・・・切れた。なんだ? 

おやじもう一回まわす・・出た。

タイ語で喋ってから俺に回ってきた。

もしもし・・・はじめ? 

「はい」

なーんだ、はじめじゃねえか。 
いやあ、久しぶり。今バンコク来てるんだ、会おうぜ。

「ええ! 今どこですか?」 

わかんねえよ。タイソングリット知ってる? 

「ああ知ってますよ」

じゃ1時間後な・・なんで最初から電話出ねえんだ。
しかもタイ語で出やがって。

おやじが言った。

「いま、日本人駐在員危ない。電話出ない」

えー? なんのこっちゃ。ま、いいかはじめに聞こう。
おやじコップンカップな。明日から手伝い来るからな。


タイソン行ってビール飲んで待つ。

ここもヒマな女がたむろしてる。
床に寝転ぶ奴、ラーメンすすってる奴、トランプやってる奴。

色目使ってくるのもいる。昼間っから冗談じゃねえ。
・・・あっそうだまあ座れよ。


っひっひ、タイ語教えてくれよ。

20代の細身の彼女、日本語ペラペラ。カタカナまで書ける。
この間まで日本人の男と一緒だったって。

それにしてもすげえ。学校行ったわけじゃねえし、生活となりゃ
何でも覚える。おみそれしやした。

じゃ先生よろしくね。へっへっへ


いくらは? 「タウライ」 へえ、タライか。

これ何は? 「アライナ」

1.2.3は「ヌンソンサム」 へえ、日本語と似てるな。
 
高いは「ペーンペーン」 っへえ、すげえや。

カタカナで書いてくれるし、こりゃ覚えるわ。面白れえ。

じゃあさ、あなた綺麗は?愛してるは? っへっへ


こんちわ~!サンダル履きではじめが来た。

うおー、はじめ! 久し振りじゃん、元気かよ。
ロンドン以来だな。お前太ったな、いい生活してんだろ。ひっひ

「いやあほんと久しぶりですね。元気ですか。
でも痩せましたねえ。 いつバンコク来たの?」

俺な、11月にアテネ出て中近東通って、2日前にバンコクに
着いたとこよ。食い物旨いし、これでも太ったほうだ。

「へえ、やっぱり中近東行ったんですか。山賊とかコレラとか、
やばくなかったの?」

そりゃヤバかったぜ。まあ一杯やりながら話そう。
しかしここ暑いな。

「そうですか。今は涼しいほうですよ。大丸でも行きますか」 

おお、行ってみようぜ。



バス只乗りして繁華街へ。途中マーケットへ案内してくれた。

「これ食ったことあります?」

さとうきび。インドで食ったがそれより美味い。 
1本2バーツ、歩きながらかじる。 甘い旨いうまい。


汗だくんなって大丸着いたら休み。

あー木曜休みだ。どっかサテン入ろうか。

いいね、行こうぜ。


でれ~っとバンコク。いい調子だぜ。ひっひ





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