印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1974年1月22日 夜10時すぎ。
寝たと思ったらノックの音。
 
誰だよ、K君か?・・何も言わねえ。やばいな。
ドアの上の網から覗いても見えねえ。

だれっ・・・ ヒッピー情報にあった。

「バンコクは勝手にナオンが部屋に来る」

でも強盗ならやばい。さすが俺、中近東ヒッピー。
一応ナイフ持って、タオルで巻いて。

鍵開けてドアそおっと・・おっナオンだ。
 
掌合わせておじぎしてる。まあ、入れよ。
 
下は腰巻、上はチョッキ一枚。25.6かな。
 
寄り添って俺の手握ってニコっ「ヒャクゴジュー」
 
日本語だ。こりゃ日本人専用だな。
 
日本語うまいね。

「はい、わたし日本人の男いた、去年別れた」

随分正直じゃねえか。笑っちゃうね。

「わたしラオ」 

ふーん、ラオスから出稼ぎか。

そんで、150バーツ? 7ドル半か二千六百円・・・
 
まいいか。目つき悪くねえし病気も・・
でも俺もヒッピーだ、一度は負けさす。

ねえ、100にしろよ。終わったら帰ってもいいぞ。

「あー、帰るダメ。オールナイト100、OK」 

ん? 100でOK、でも帰るのダメ? わかんねえ・・
あっ、てめえ枕探しじゃねえだろな。

ちょっと待て・・ドア空けて廊下に怒鳴る。

おーい!100でオールナイトって相場かあー?

どっかの部屋の日本人が答える。

「相場だー。初日150もある」 

初日? なんだ? オールナイトだけですかー?

「ここはそうだー。早くやれ」 

お、最中か。悪りい悪りい。 

まあ吹っかけてねえのはわかった。
じゃ、シャワー浴びるか。

「ハーズカシー」 

何言ってんだ、ばか。

まあ、そういうことで久しぶりに・・・
う~んバンコク。なかなかいいじゃん。


金欠、禁欲、緊張のキンキンキンの2カ月、中近東。
そんでここでオアシスか。 へへ、うまくできてる。

っふっふっふ、ふあっふあっあ、いーっひっひ
ストレスも、色んなもんも、出しちゃうか。


1月23日 朝6時。車の音がうるさくて目が覚めた。
蒸し暑くてろくに眠れなかったぞ。

おっ、昨日のナオンが床に寝てる。

おい、起きろよ、ほれ。

「はい」 

なんだ眼覚めてんのか。あれ?お前、意外と若いな。
スッピンもいい、スッピンのほうがいいぞ。

「おはようございます。はい、これ」 

俺のツンパ、ランニング、ハンカチをきれいに畳んで椅子の上。
 
なんだ、どしたの?

「私、早く起きて洗濯した」

へえ、ありがとさん。でもこんなきれいに畳んでさ、
ホテルにアイロンやらせたんじゃねえの?

ハンカチ取って二の腕で擦り始めた。

おおそうか、手アイロンてやつか。すげえすげえ。
 
「っふっふ、いいでしょ?」

商売とは言え、やってくれるね。ありがとさんだ。 
ここんとこ洗濯どこじゃなかったしな。感激だぜ。 


外に出て屋台で朝飯驕ってやった。二人で4バーツ。

「映画行きたい」 

バカ、調子乗るんじゃねえ、俺りゃ貧乏ヒッピーだ。
駐在の金持ち日本人とは違うよん。

じゃ、散歩でもするか。


 
トゥクトゥクでチャオプラヤ川。
恋人気取りで、かき氷食ったりバナナ食ったり。

ところでさ、なんでオールナイトなんだ?

「アパート10人。せまい、暑い」 

ふーん、そういうことか、なるほどな、大変なんだ。
家計を助け大家族を助け世の為人の為、日夜ホテルを
渡り歩るく。 立派だ っへっへ
 
じゃあな、もう一人で帰れよ、バイバイ。


さ、きょうははじめ君に電話しなきゃな。
奴もまだ学生だし家に居るだろ、会いに行くべ。

あ、その前にタイソングリット部屋空いたか行ってみよ。

しかしバンコクは不思議。男より女が生き生きしてる。
中近東とはダンチだな。女社会か。



タイソン行ったらまだ満員、チャイナの正月だって。
嘘じゃなかったんだ、中華系じゃ今頃正月か。

うー、暑い。一階土間でビール飲んで一服。

「あれえ? よーおー久しぶり!どうしたあ 
ここで会うとはな 元気かよ」

うおーっ、なんとなんと池ちゃん!げええ 
偶然もいいとこだな。

2年前の3月24日、横浜からフーネに乗ってソ連へ。
そのツーリストのモスパック仲間だ。

ユトレヒトで別れて、俺はロンドン池ちゃんは北欧へ。
あれ以来、約2年ぶりか。変わってねえな。

傍に見た顔の女が居る。

あれ? 君は・・・

「そう、あんとき知り合ってさ、去年3月日本帰って付き
合い始めたんだ。それで二人でインド来て帰国するとこ」 

なんだ、あん時知り合ってって、日本でうまくやったのか。
ひっひ、羨ましい奴め。顔に似合わず手が早えじゃん。

それにしてもびっくりだなあ。世界は狭い。


ビールやりながら懐かしい話が始まった。 
あん時、大桟橋。みんな緊張してたよな。

なんたって強烈だった。ロシア船プリアムーリェ。
パンは真っ黒、酔って吐いたのもいたな。

「そうそう」

バス、飛行機、鉄道、軍隊、税関 っへっへ
モスクワで旅費不足だって言われてさ、覚えてる?
あんときゃあせったな。

っはっは、ほんとな。

・・・話は尽きない。そんでここで泊ってたの?

「いやここはヤバイよ・・・友達がここにいるから
遊びに来たんだ。そうだお前ニューヨーク行った?
68年に出て放浪してる奴だ。 知ってるかもな」

NYか。去年皿洗ってたよ。
じゃバンコー知らなきゃモグリだ。っひっひ 

「11時だから、もう来るよ。そいつね、カオサンで
針金指輪作って売ってる」

「こんちわY山です」 

そいつが来た。知らねえけど話してわかった。
バンコーは俺と入れ違いで73年春に入ったらしい。

6年も放浪してて俺より猛者だ。ほんと世界は・・ 

「じゃ大丸行って飯食おうぜ」 

ダイマル? ダイマルってあの大丸かよ。

「そう。冷房効いてるしさ」 

ほんとだ。 繁華街の真ん中に大丸があった。
デパートまでタイ進出か。日本は大国だな。 

2階にガラス張りの日本風食堂。
焼飯やうどんまである。

取り戻した例の62ドルが役に立った。金持ってなきゃ色々
遊べねえし。よかった。

ラーメン食ってビール飲んで夕方までダベった。
名古屋での再会を約し宿へ戻った。

いやあ、きょうはいい日だった。
あ、はじめに電話すんのすっかり忘れてた。
ま、明日でいいか。

寝よ。酔っぱらって水シャワー 最高zzz


・・コンコン!キツネじゃねえ、ノックだ。

なんだよまたかよ。もうきょうはいいよ。
ねむてえし酔っ払ってるし。

・・でもまあ、一応ドア開けた。

おっ!なんだ、またお前か。

俺のことカモだと思ってんな。

うん? 後ろにひとり居る。背中から顔だけ出して、
手あわせて拝んやがる。

俺りゃ仏さんじゃねえぞ。誰だそいつ。

「イモート イッショ」 

なに!? 妹一緒じゃねえ、そんな金ありゃしねえ。
ダメダメ、帰れ。 俺りゃ寝る。

奴も根性だ、引かねえ。

「お金イラナイ。食べるだけOK、3POK」 

飯だけ食わせりゃいいって? ダメ。
 
俺りゃ酔っぱらってるし3Pどこじゃねえ、帰れ。 
他の日本人あたれ。

バイバイ。 ったく


ドア閉めた・・・貧しいな、大変なんだよな。 

おーい、入れよ。

「アリガト~」

妹だか何だか知らねえが、顔も似てねえじゃねえか。 
ったく。 何にも喋らねえ、下向いて座ってる。

「3Pだいじょぶ」 

うるせえ。腹減ってんだろ、俺も喉乾いたし行くか。
奢ってやるよ、しょうがねえ。

屋台連れてって焼きそば食わした。
欠食児童並みに食いやがる。

っへえ、飯食ったら初めて笑った。ゲンキンなもんだ。
うっはっは はっはっは。

サトウキビジュースとコーラ飲んで、ウイスキー5バーツで
買ってホテルへ帰る。

さあ、もう帰れよ。

・・・部屋まで来やがった。しょうがねえ、二人で床に寝ろよ。
ほら、電気消せ。寝るぞ。

「アナタ ヤサシイ」 



うるせえ早く寝ろ。 妹はトイレ行くって出てった。
 
そんで、奴が・・きた・・ああ 

なんちゅう日だ。これじゃBANGCOCKだ。

っひっひひゃっひゃ ひゃああ 面白れえ・・






< 99 / 113 >

この作品をシェア

pagetop