印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1973年12月21日 まだニューデリーに居る。
一人は日本からの送金待ちでここに残るって。
じゃ、きょうから俺入れて4人か。

合言葉は「ボンベイ行けばバクシーシは居ない」

まずはアグラ行ってタジマールでも見よう。

ニューデリー駅、ものすげえ人。こりゃ普通じゃねえ。 
構内、ホーム、線路にまで人が座って民族大移動か。
いくらインドでも、正月の帰郷にしたって異常だ。

兵隊つかまえて聞いてみた。 

「1週間前から鉄道ストで、きょうから動くけど、
いつ出るかわからないよ」

あっそう、じゃやばいね。バスで行くか。9.1ルピーか。
じゃあ、バスにしよう。 地獄列車で窒息死じゃ笑えねえよ。


黄色や緑の豆電球を目一杯つけて、屋根には荷物、バナナ、猿
鶏、犬、積めるだけ積んで乗れるだけ乗って、派手派手バスは
9時にニューデリーを出発した。

まだら舗装のガタガタ道を走る。

森と泉にい~・・・いい雰囲気。
便所休憩1回で午後2時、アグラの街に入った。


ほお、これがアグラか。田舎だ。空気がいいし車も少ない。
デリーより暖ったかい。来てよかった。

とりあえず飯食おう。

空き地にテーブル出しただけの飯屋。座って10分、
兄ちゃんがブリキの皿の上にパリパリナンとカレー、
丸っこい揚げた肉団子を勝手に置いた。

うまそうじゃん。

じゃ、スプーンくれよ。俺等はスプーンで食う。
得意顔で手で食ってるヒッピーもいるが、
俺等日本人は節操がある。

チャイ飲んで腹一杯。そんで、1ルピー?! 安いな。
デリーの半分だ。物価が安いと身も心も軽い。っひっひ


車が少ないぶんリキシャは溢れてる。
飯食ってる間、ずーっと見てたリキシャのおやじ。
歩いたらついてくる、曲がってもついてくる。
ツーリストインフォ行ってもついてくる。いい根性だ。
でもわりーな、俺等歩くよ。


インフォの日本好きオヤジの世話で、1人5rpのゲスト
ハウスを紹介された。 まあ見るだけ行ってみよ。

でかい! 昔のお屋敷か。庭でキャッチボールできる。
水道はあるしバスタブもある。ベッドには上掛けも枕も。

部屋は広い4人部屋。 窓もあるし鍵もかかる。こりゃ最高。
アフガン以来一番だ。

ちょっと高いけど、もうここにしようぜ。
たまにゃ贅沢、ゆっくりできそうだ。

風呂入って洗濯して、晩飯食ってベッドに横になる。 
静かだね、鳥が鳴いてる。みんなに手紙書いて寝た。


12月22日 7時、よく寝た。いい天気いい気分。

「おーいトモダチ起きたか」

日本好きのおやじが来た。木の枝を出して、

「はーい、これ」 なんだよ占いか?

ジェスチャーで説明する・・・お、歯磨きか。これで?

木を噛んでバサバサにする。 おお、こりゃニッキだな。 
苦い、まずい。 俺等修行者じゃねえぞ。

擦ってみる。うーっきっき 歯茎が痛え。ヒューヒューする。

「よしトモダチ、次だ」

世話焼きおやじ、庭を見ろって。

ジャーン! 4人分の朝飯が用意してある。すげえ。

木のテーブルに白いクロスまで掛けて。おやじご機嫌。
ほんとに日本人好きか、金づる探しがうまいか。
ま、宿とつるんだ客引きなんだろが・・

よっし食おうぜ。 いっただきまーす。

おお、目玉焼きだ。気い遣ったな、おやじ、美味いぞ。

おやじ、新聞読みながらご機嫌。 字が読めるのか。

食い終わったらチャイとビリー持ってきて一服。
もう至れりつくせり、ナズナにきゅうりだ。


「さあトモダチ、きょうは車用意した。4人で1日10rp。
運転手は俺の兄弟だ、心配ない。タジマハールでもどこでも
行くよ。好きなように使ってくれ。 へっへ」

うっひょー、殿様気分だぜ。苦しゅうない、よきに計らえ。
飯食ったら出発じゃ。 はっは 

こうなったら、全部おやじに乗ってやるぞ。うーっひっひっ。



着いたタジマハール。 うおお!ハンパじゃねえ、すんげえ。
広大な土地、真っ白い大理石、溜息の出るよ~なだな。

写真撮ったけど、ぜーんぜんおさまらない。

王妃のお墓、20年以上かけて建てたこの贅沢と根性。
パルテノンもすごかったが、街なかで迫力は少ない。
アルハンブラもすごかったが、これよりは小さい。

ここは周りにな―んにも無い、平原と青い空だけ。
こんなアホみてえな建物、インドしかできねえ。

運ちゃんはまたサービスもすんばらしい。
車戻ったらお茶とおしぼりだ。

さーすが!おやじの兄弟、筋金入り。



次はタジマハールを観るための城でーす。アグラ城。

朱色の回廊はなかなかのもん。山一つ分くらいある。 
遠くの真正面にタジマハールが浮かんでる。

ほお! これがインドの絶景ってやつだな。

シアャージャハンが自分の王妃の墓をいつも見れるように
作ったって。 贅沢も我儘もケタはずれだ。

しかし、生涯乞食共は浮かばれねえ。

お墓を観るためのお城って聞いた事ねえ。
ピラミッド観るための城ってねえだろ。

まあ、インド人の発想はたまげる。


3時頃宿に戻った。 

じゃヒマだし天気いいし断髪式やるかな。
NY以来、1年ぶりに髪を切る。

いかにもヒッピー風ってえのに飽きてきたし、洗うの面倒だし、
ノミやシラミがたかるし。

おカマのスーさんはいないから自分で切る。
おやじにハサミと鏡借りて、ジョリジョリゾリゾリ。

うーん我ながらよくできた。短髪ヒッピー完成。


夕方、おやじが若いの連れて部屋に来た。

「プロフェッサーのとこに連れってってやるよ。
こいつがシタールやってる先生を紹介する」

きのうおやじに俺バンドマンだって話したらすぐにこの対応。
っひっひ うれしいね。

牛とバクシーシ小僧を避けながら路地を行く。
20分くらいで石造りの長屋みてえな家に着いた。

中に入るとガンガンにシタールが聞こえる。
演ってる演ってる。シタールとタブラだ。モノホンだ。

曲が終わって、若いのが俺を紹介する。
先生はえらく丁寧に握手してくれる。

「ようこそ アグラへ」お、先生英語話すんだ。

そしたら先生が仰った。シタール弾けって。

えっ、俺は弦はやったことねえ・・・って言っても
無理やり座らされた。

ものは経験だ、やるか。


まず座り方。右足がこう、左足はここ・・ヨガだな。
次にシタールの構え方。シタールは意外と軽い。
角度はこう、右手はここ、左手はここ・・・

やっぱり伝統楽器ってえのは、三味線でも和太鼓でも 
まずは姿勢と構えか。 緊張してきた。



そんで右手の人差指に針金のピックをはめる。
それで弦はじいて左手で下にチョーキング。

チョイ~ン 出た! あの音だ、っひっひ

一応ドレミファはあるけど、半音とかは無い。
ドとレの間に4つも音があるって・・すごいね。

でも、俺タブラ演りてえな。パラトットンってやつ。

「そうか君はドラマーだったね。じゃあ次はタブラだ」

先生ご機嫌だけどだいじょぶかよ、俺金払ってねえよ。

まいいか。タブラも同じ、まず座り方と構え方。
あぐらかいて2基をかかえる。

先生の指はまるでウチワみてえに指先がでかいし固い。
浪越徳次郎もびっくりだ。へっへへ

トンッ! うーんこれだ!この音、いい感じ。

「じゃ演りましょうか」 

シタール先生と俺のタブラでセッションが始まった。

5分くらい、でたらめにやってたら

「次は6拍子!」ってもう始めちゃった。

ついてくしかねえ。こりゃおもしれえ。



「はい次は9拍子半です」9拍子?半?なんだよ?

シタールには朝と昼と夜の曲がある。
いまこれは夜の曲だって。

先生、なんか歌いながら弾き始めた。俺は手も足も出ねえ。 
見かねたタブラ先生、俺に代わって叩き始めた。

ぜーんぜん違う。リズムも音色も。
そりゃそうだ、俺は1時間、奴は40年のキャリアだ。

指の三連そして四連。リムも胴も使って・・サーカスだね。

エキサイトエキサイト! 見物人が入って来た。
イエエイ! 思わず拍手拍手 先生ブラボー!


ふうう・・久々に生の演奏聞いたし、演ったし、気持ちいい。
血が騒ぐな。やっぱりおりゃあバンドマンがあってる。

しかしこのリズムも音階もインド五千年。 
西洋音楽なんかメじゃねえってことだ。

2時間もお邪魔した。ありがとう先生。ところで金は?

「お金はいらないシ。タールやタブラ買う時はここに来なさい。
きょうはとても楽しかった お元気で、また会いましょう。
あなたの旅の安全を祈っています」 

ほお!まるで導師だ、立派なもんだ。ありがとございました。 
流れ者のヒッピーに、ちゃんと教えてくれて感謝します。


外は暗くなってた。 興奮冷めやらずってやつ。

にいちゃんありがとな。いい経験できたよ。
じゃあ夕飯おごるよ。

中華レストランで二人で焼き飯食った。
ドンバヒッピーのせめてものお礼だ。

宿帰ってみんなに自慢してやった。 っへっへ
水谷君俺も行きたかったよって。

しかしインド、思った以上。バンコーの奴等の言ったとおりだ。
全然西洋じゃねえし東洋でもない。インドはインド。

マカマカ不思議摩訶不思議。
人も歴史も音楽も、摩訶摩訶不思議摩訶不思議。

クイ~ン クイー~ン  おやすみ~


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