印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1973年12月28日 朝8時、船は岸に着いた。
 
ジャーン! ゴアだ。 暑いぞ、最高じゃんキャッホー
まだ体揺れてる。一服してヒッピー情報を見る。

「ゴアはカラングットビーチへ行け」 

バス停行ったらヒッピーどもが結構居る。

「よお、前等もカラングットか?」

パナジから近いしヒッピーのメッカだって。ふーん

「オオイエイ、いい草あるぜ」 

バーカ、俺等は草じゃねえよ。もっと深い人生だ。へへへ
ラリパッパアメ公と一緒じゃつまんねえ。ほか行くか。

ちょい遠いけどコルバビーチにした。バスで1時間半。
マルガオ村に到着。 別に皆丸顔なわけじゃない。

椰子の並木道、うーん最高。その突きあたりは海だ。

男は裸足でフンドシ一丁、女子供は愛想がいい。
これが安心する。日本人は俺等4人だけみてえだ。


英語でBEDの木の看板。あれが民宿か。

まず海行くこうか。裸足で歩いて砂浜行って寝転がる。 
日差しはカンカン、空テンテン。 ついに来たぞゴア。

パンとオレンジ食って一服。

光る砂、小舟と椰子の木。海は見渡す限り水平線。
地球の丸みがはっきりわかる。うーん。


椰子林を行くと、玄関にツリー、紙製のロウソク飾り。
真っ黒なおやじ、可愛い娘も三人居る。



俺等4人で泊まるけど、いくら?

「1週間で飯付70rp 今クリスマスちょっと高い」

じゃ普通の時期はいくらよ。

「普段は50だよ」

じゃあおやじ、55にしてくれよ。 

すぐOK、決まりだ。っへっへ
ひとり1泊2ルピーか。こりゃ安っすい!


玄関入って左と右の石の部屋にふたりづつ入る。

壁には十字架、マリア様の絵。 

ん?おやじ、ベッドひとつしかねえぞ。

おやじ、ニヤっと笑って椅子を持ってきた。

縄で編んだ椅子をつなげてムシロ敷いて、はーい出来上がり。
見てた娘達は拍手。っほっほ みんなが笑顔 いいねいいね。


おやじも娘等も片言の英語を喋る。さすが旧英領。

日本てどこにあるのとか、キモノ知ってるとか可愛いね。 

五円玉の首飾り作ってやったら、はしゃぎまわって笑う。

安い飯屋ねえかな?

おやじが指さす、娘が案内する。君も一緒に食べなよ。
・・・恥ずかしそうに立ってる。
40パイサの飯食って海岸に行く。



うおおお!! アラビヤ海に夕陽が沈むぞ。

向こうは来た道ヨーロッパ、夕陽にみんな無言。

爆竹が聞こえる。行こうぜ。

村人が練り歩く。竹製の飛行機、魚、十字架、星。
バンジョー弾いてバイオリンとタイコもいる。いよっー。

電灯の無い道に爆竹の光が眩しい。

俺等もついてく。椰子林練り歩いて最後は村で一軒だけある
チャーチに着いて、そこでフィニが出た。

どぶろく風の椰子酒で、年末年始を祝う。 
乾杯で民謡が始まり、歌う踊る南洋の新年だ。いよお!


12月29日 起きたら昼。もう陽は高い。もったいねえ。

飯食ってひと泳ぎ。そんで庭の井戸で体洗ってたら娘さんが
タオル持って横に立ってる。うーん、殿様気分。
 
村へ買出しに行く。果物、地酒ブランデー、それに体洗いと
洗濯用にバケツを買う。

物価は安いし人は優しいし、いいとこずくめのコルバビーチ。

・・・でもなかった。



それはブタ食い式便所。
 
庭にちょっと高くなってる小屋が問題の便所。

コンクリに穴。便器の下は後ろにスロープしてる。
便所の戸が開くとそこにイノブタの子豚がブイブイと
ハリキッテ飛んで来て、そんで全部平らげる。っひっひ

無駄のないインド式。しかしなかなかできねえ。 
小便はまだしも、大きいのはちょっとした覚悟が要る。
 
角度があるから絶対にケツを食われることはない。
でも股の間でブタが・・・慣れるまで3日かかった。 
っひっひ 世界にひとつゴアの便所。


12月30日 朝飯食って泳いで昼寝してフィニ飲んで。

ヒマだし村探検しようぜって、4人で椰子林を歩く。

500人も居ない小さな村。フンドシ男と黒ずくめの女。
子供は多い。平和な南洋の村。もめ事もないんだろな。

椰子林に掘立小屋の飯屋。ナンとチャイで40パイサ。
食ってると子供たちが集まる。そんでインド流じゃんけんや、
インド式フラフープを俺等の前で得意げにやってみせる。

こういう子供が居る国は、絶対幸せだな。

泳ぎ飽きたら庭にゴザ敷いてフィニで宴会。

おやじがレモンと砂糖ソーダを入れると美味いって。 
なるほど。 オレンジと大根をつまみで、うめえうめえ。

娘達にあやとり教えてやって、おやじと腕相撲して、 
夜は大の字になって星を数える。うええーすげえ。


ここは泥棒も金も心配ない。
波の音聴きながら、焼けた背中が痛くて石の床に寝る。
ヒンヤリ気持ちいい。天国だ。

もう、どこへも行きたくねえぞお・・zzz zz



12月31日 飲んで泳いで遊んでるうちにもう大晦日。
海パン一丁で年の暮れか。きょうも朝飯食って海に行く。

水谷さ、きょうは沖の船まで行こうぜ。

「よーっしゃ、行くか」

泳いだ泳いだ。柔道部の遠泳より泳いだ。

ふー、見た目より遠いな。

15分も泳いでやっと船に着いた。

両端に二本づつ木の手がある小舟。いかにも南洋風いい感じ。

横に伸びた木の手に腰かけて一息ついた。

いやあ、結構きつかったな。学生の時みてえにいかねえよな。

っひっひ、でもいい景色だな。海から陸もなかなかいい。


おお、岸から船が来るぞ。3台、これから漁か大変だな。

おい、泳いでる奴もいるぞ。漁じゃねえな、どしたんだ。

あっ、手あげてなんだ? なんかやばそうだぞ。

先頭の船には酋長格のじじいが乗って、俺等を見てる。
横の船は、目剥いた野郎が4.5人大声で怒鳴ってる。

俺等か? なんだ? どしたんだ、来たぞ。

泳いでた奴が俺等の脚をとって海に引きずり込んだ。

ぐえええ! 動けねえぞ。

船のオールで水谷の肩を思いっきりぶんなぐった。
俺は左耳の上と頭をやられた。 海に血が流れる。


やばい、殺されんぞ。 とっさに浮かんだ・・・十字架だ!

水谷、十字切れ! ジュージーだ!

奴も蒼白、肩やられて手があがらねえ。

俺、思いっきり叫んだ。でも水飲んでるからリキが入らねえ。

俺等はクリスチャンだあー たーすけてくれええ!!


酋長の合図でオール叩きが止まった。そんでボス格が言った。

「この船はこの村の船だ。お前たちが座ってるケツの下は、
この村の漁網だ。網は命だ。 お前達を許さない」

うう、そういうことだったか。わかった俺達が悪かった。
ただ俺達は泳ぎたかっただけだ。信じてくれ。

水谷も必死で立ち泳ぎ。アイムクリスチャン!アイムソーリー

酋長が合図して、男が俺達を奴等の船に上げた。
 
酋長は俺の耳の上から血が出てるのを見て、目をしかめて
ほかの船のボス格に合図した。

ボス格がフンドシを切って俺の頭に巻いた。

「ケガさせて悪かった」と言った。 うー助かったあ。


でも、ほかの奴等はまだ目剥いて怒ってる。

早く岸に着いてくれ。このまま着いてくれ、頼む。

「去年、ヒッピーが沖の船を沈めてしまった。だからお前達も
そうだと思って威嚇した。 ケガはだいじょぶか」

だいじょぶだ。俺達が悪かったって皆に伝えてくれ。

酋長だけ握手したが、ほかの奴等は無言のまま岸に着いた。

酋長もほかの奴等も、何も言わずに船を降りて帰って行った。


ふ~ 助かったな・・・水谷だいじょぶか。

奴はまだ蒼ざめてる。俺もまだ心臓が鳴ってる。
 
無言で宿に帰って血の滲んだ褌の切れ端を洗って巻きなおす。


おやじが用意した晩飯を食う。きょうの奴等が採った魚だ。

ウリ、キャベツ、大根の塩もみでフィニで一杯やりながら 
皆にきょうのできごとを話した。

ふっへえ! ほんとかよ うっへえ やばいな。

笑いごとじゃねえぞ。っはっはっは。


不思議な大晦日、夢みてるみてえだ。でも殺されずによかった。

いい気になって、はしゃいじゃいけねえってことだな。

耳が痛え ってってって







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