印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
1974年1月1日 5時。

昨日のフィニが効いた、誰も起きてこねえ。
まだ左耳の上がヒリヒリする。 

椰子林の奥からパンパンカンカン、爆竹や歓声、
チャーチベルが聞こえる。

「おお、きょうは元旦か」

水谷が起きてきた。

よお、だいじょぶかよ?

「ああ、骨までいってないみたい。まだちょっと
ヒリヒリするけど」 

どう、見せてみろよ。ああ左肩擦り切れて青くなってる。

船のオールでひっぱたかれたんだからな。
それにしちゃあ軽傷か、っはっはっは。

まあ勝手に船に行った俺等が悪いんだけどさ。
とりあえず命は助かった。

じゃあ、明けましておめでとうございます。

うっひっひ 暑い正月だぜ。庭でゴザ敷いて一服。


7時頃、宿の前にも行列が来た。普段は裸足の土民達が
精一杯着飾って、白ソックスと靴履いて盛装で行進。 
粗末だけど荘厳な感じ。

二人も起きてきて4人で年始め。

御屠蘇代わりにソーダ割りのフィニで乾杯。

話だけでも餅、おせち、日本酒。
やっぱり正月風景は日本なんだよな。っへっへ



ここん家の娘クリスチーナとカトリーヌ。7歳と10歳。 
一張羅で着飾って薄化粧して、恥ずかしそうに来た。

「おはよう!新年おめでとう!」

やっぱりキリスト教だって新年は特別だ。
一緒にゴザに座ってあやとりしたり、日本のじゃんけんや、
影絵教えて、もうキャッキャッキャッキャ。

おやじも入って一杯飲む。ウリのつけもん、こりゃうめえ。
犬にも肉付骨のごちそう。ほれっ っひっひ

「生まれて初めてだな。海パンで正月だぜ ほっほ」

飲み飽きたら海行ってひと泳ぎ、昼寝してまた飲む。
一日中、元旦の宴は続いた。 はっは、たまらんぞ。



1月2日 きょうも爆竹の音で目が覚めた。

フィニのソーダ割りで起きがけの一杯。
井戸で顔と体洗って、もうすっかり土人並みだ。

娘もおやじも、おはようさん!いい正月だね。

椰子の葉で葺いた飯屋行ってポテトワダとマサラドッサと
チャイ。そんで海行ってひと泳ぎ。

昨日はトップレスが一人いたが、きょうは全裸が二組。
白人の中年カップルってなんかいやらしい。へへへ


昼、宿戻って井戸で体洗ってフィニをグイッ。
つまみは今朝買ったピーナツボール、これがまたうめえ。

「これで白飯と風呂があったら日本帰らねえな」

ひひ、最高だよ、罰当たりそうだぜ。はっは 

メガネはマジで「もうきょうで1週間だよ。次どこ行く?
これ以上いたら動く気なくなるわ」

それもそうだな。そろそろ動こうか。

どこ行く? カトマンズは寒いしベナレスどう? 

おお、ベナレスか。決まりだ聖地ベナレス行こうじゃねえか。


1月3日 いつもの飯屋でマサラドッサの朝飯食って、泳ぐ。

うーん、このアラビア海とも今日でお別れだな。

パン食って木陰で昼寝して3時頃宿に戻った。

さあ、荷物まとめるか。ま、ズタ袋ひとつだけど。 


すっかりなついた娘達が寂しそう。

「なぜ帰るの?ゴアいいでしょ?」 

勿論、ゴアは最高だよ。この宿も君達も最高だよ。
でもこれ以上いると、ここに住んじまうかもしれねえ。
お前を嫁さんにもらっちゃうかもな。っはっは

またいつか来るよ。

純情無垢な眼、俺の膝に乗って遊ぶ娘達。
うー、ほんとに居つきそうだ。

名残惜しいが俺等は旅人だ。

正月飾りが取れていつもの夜になった


1月4日 クリスチーナとエリザベスとおやじや近所
の子供達にもさよならだ。

寂しそうに手を振る娘達、無口なおやじも手を振ってる。

じゃあな、ありがとな。また来るよー。

娘達、いつまでも手を振ってた。



9時のバスでマルガオへ。30分で着いた。
ボンベイまでのバスは予約満席だって。

でも地獄列車はもうコリたし、まず船でボンベイ行くか。

バスでパナジまで行って安宿見つけ部屋決めて、
船のチケット買いに港へ行く。朝10時の船がとれた。 

宿で久しぶりに鏡を見た。うっへえこりゃ土人だぜ。
ちょっと太ったな。食える物いっぱいあったしな。

8日間のゴア三昧、残金290ドルと60。もつかな。


1月5日10時。 来た時と同じ船でボンベイに戻る。

現地人と白人もチラホラ居る。快適快適。
デッキでフィニ飲んでゴアが遠のく。

おおい、また来るぞお!


1月6日朝7時、ボンベイ着。行きより早い追い風。

駅行ってベナレスまでの切符、3等学割で42ルピー。
夜8時発か。たっぷり時間あるしボンベイの街行くか。

西洋風で道路もいい、それにバクシーシが居ない。
そういやあバクシーシ逃れでここへ来たんだっけ。

ラッシージュース杯飲んで公園で昼寝。風がいい。

「なんかちから抜けたね。ゴアで遊びすぎたかな」

そうだな、でもいいじゃん。遊び過ぎるってことはねえ。
俺等はヒッピーだぜ。なんにも縛るもんはねえ。ヒヒ

明日はベナレスだ、ガンジスで沐浴でもすっか。


モダンなボンベイの大通りを、汚ねえ日本人ヒッピー。
どっちが途上国だかわかんねえ。
 
6時に駅。折角金払って寝台とったのに珍しくすいてる。
臭え列車だがゆっくり寝よう。
 

1月7日 夜中12時。モンガルサライ着。 乗換だ?
そんなの知らねえよ。

ベナレス行きは2時40分?ばっかやろ。 

しょうがねえ、構内でトランプして待つ。
2時間。誰も居なくなった。

おい、もう2時過ぎだぞ。ベナレス行きの列車
いつんなったら出るんだ。 

「それは出ない。中止だ」 チューシ! 

ばかやろめ。俺等ずーっと待ってたじゃねえか。
どうしてくれんだ。

すたすた行く駅員。

待てコノヤロ、この切符どうしてくれんだ。

「ああ、それでバス乗れるよ」

ああ、もうだめだ、話になんねえ、やめよ。
怒ったらゴアの思い出までメチャクチャになる。 
笑って通り過ぎようぜ。

しょうがねえ、バス乗るベ。

でかい面して乗り込んだ。チケットチェックも来ねえ。
そのまま30分、終点に着いたら55パイサ出せって。

じょうだんじゃねえぞ。俺等は切符もって・・・駅員も・・

・・・いいよ、もう払おうぜ。二重払いだ。
55パイサっていやあ、いい飯1食分だぞ。 あーあ 


ヒッピー情報「ベナレスはKHMホテルへ行け」

夜中3時だぜ、歩くか。 地図頼りに着いた。

真夜中だってえのに入口で体操してるじじい、修行者か。

一人5ルピーのわりには風呂付部屋もまあまあ。
鍵もかかる。 ふう、なんとか寝れそうだ。

風呂入って明け方寝たzzz

ゴア 夢に出てきてくれ~






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