印毎来譜 「俺等はヒッピーだった」
974年1月8日 誰も起きてこねえ。もう昼だぞ。
昨日の列車でクタクタかよ。

おーい、ベナレス来たんだぞ、起きろよ。

水谷起こして、金借りてる俺が奢りで屋台へ誘った。
ワラジパンにカレー、バナナにチャイ飲んで8ルピー。

天気いいし街まで出てみる。

匂いも色もボンベイともデリーとも違う。
旧市街は人も多いが動物も多い。

牛・猿・犬・豚・ラクダ・蛇。バクシーシのガキも
しこたま居る。 世界中の物の溜まり場じゃねえか。

「よお、なにやってんだあいつ」 

ん?ひっひっひ うっはっは おーっへっへ 

鼻の穴にガーゼ入れて、右から左へツーツーレロレロ。 
爪は魔女並みに長く丸まって、髪の毛は3mはある。
それをターバン代わりに巻きあげて、髭はヘソまである。
ケツは汚ねえ黄土色。顔は黒光りで年齢不詳。

フンドシ一丁で、通りの真ん中で無表情で鼻クイクイ。 
足元の籠の中には蛇。 日本だったらすぐ逮捕だ。


物価はボンベイより全然安い。その分貧しいってことだ。
バザールには着る物、食い物、光り物、履物、差物、巻物。

ここはなぜか時計屋やポスター屋が多い。
銭湯並みの象やシバ神の派手な絵のポスター。
和紙に白黒で描いた牛が踊ってるのは最高。 

サトウキビジュース、氷無しで20パイサ。
パイナップルが一番高くて2個で5rp。

リキシャは交渉で3パイサから乗せる。

それに乗って鉄道駅に行って列車を調べる。
北へは1日2本、夜7時と9時だけ。

夕方、ホテルへ戻って庭でだべりながらメチルの闇酒で乾杯。
そんで久々の草。 目の前で猿が飛び、シタールが響く。
ジャイグル~デイヴァ~ 明日ガンジス行くべえ~。


1月9日 朝7時。4人でガンジスへ向かう。



しかしこの匂い。スエた雑巾か腐ったみそ汁。
ソドムの様な道を行く。同じインドでもここはちょっと違う。

牛を避ければ猿が居る、猿を避ければ乞食がいる。

男はみんな修行者か。

杖と片足で立ってる奴。背中に鞭打ちの痕がある奴。
骨と皮だけの奴。 座禅組んで座りっぱなしの奴。
これが、みんな道端の景色だ。
昨日の鼻野郎がきょうもクイクイしてる。

もっと妙なにおいがしてきた。川が近い、噂通りだった。


 
ガートにひしめく老若男女。ここには女もいた。

こんな汚ったねえ川で、沐浴、洗濯、糞してうがいして、
顔洗って、死体焼いて。 一体、なんなんだ。

こりゃ二百年前の世界だ。これがガンジスか・・げえっ

川は汚ねえが、インド人にはなんたって聖なる川だ。 
みんなありがたがって拝んで浴びてる。異様だ。


手を頭の上で回しながら真っ黒の兄ちゃんが来た。
ボートに乗れだ。 そういやあ何艘か出てる。

まあ、話のタネだし乗ってみるか。4人で50ルピー?
っへ、バカ言っちゃあいけねえ。俺等はヒッピーだ。
50で乗るくらいなら泳ぐ。10なら乗るぞ。

おやじ「OKOK」値段なんかあってないようなもんだ。

洗濯おばさんの横のガートを降りて、川を潜ったり
出たりしてるおやじを避けて、ウンコしてる子供を避けて、
やっと、ボートにたどり着いた。

ズボンびじょ濡れ。でも、この暑さと乾燥ですぐ乾く。

兄ちゃんの手漕ぎで、ゆっくりガンジスを下る。


ガートを離れると風向きでそんなに臭くない。
でも水は茶色で川の中はまったく見えねえ。

あっちに、白人ヒッピー乗せたボート。
Tシャツ短パンの女が吐いてる。

フンドシから半分はみ出てるにいちゃんが解説する。

「さ~て、皆さん。これが有名なガンジス川でーす。 
インド人は死ぬまでに一度はここで沐浴しまーす。
向こうでは死体を焼いてまーす。向こうは猿のお寺でーす。
そんで向こうはゴータマの泊った寺でーす。
写真は死体以外どんどん撮ってOKでーす」

インド英語でお決まりのガイドする兄ちゃん。二十歳位か。

ガート横の小高い丘で死体を焼いてる。
八段のやぐらから煙が昇ってる。クッセエー。
煙が落ち着くとカラスが上を舞う。

別に泣いてる人がいるわけでもねえし、喪服の家族が居る
わけでもねえ。 お経だけが風に乗って聞こえる。

誰があんな高いとこで焼かれてんだろ・・・ベナレスか。 



ズボンはすっかり乾いて南のアシスガートに着いた。

「は~い終点でーす。30ルピーで観光案内しますよー。 
チップはいりませーんよ。どーぞー」 

悪りいな。あっちの白人でもあたれよ。

兄ちゃん、写真撮ってくれって舳先に立った。
ハイチーズ! バカ、撮ってねえよ、フィルムもったいねえ。
 

おやじの言ってたモンキーテンプルへ行ってみるか。

細い道を登って小さな茶色い寺がそれだった。

猿が自分の家だと思って暮らしてる。町中も猿だらけ。

ガート脇屋台でチャパティにカレーとゆで卵、チャイ飲んで
5ルピー。 外人観光用の2倍値段。


華やかさはない、明るさもない、辛気臭い町。
でも人がわんさか集まり、なんかに憑りつかれてる。

ここにさえ来ればって、カルマを疑わないベナレス。
1日見ればたくさんだ。あとは行者になるしかねえ。
 
俺等みてえなヒッピーがカッコつけてぶらつく所じゃねえ。
ここは、インド人の聖地だ。



ホテル戻ったら兄ちゃんが来た。

「ガンジスどうだった?最高だろ。ところで時計ないか」 

ほんとお前等時計好きだな。じゃあとっておきの腕時計だ。
どうだ、これ買うか?

ポルトベロで拾った女物。でもセイコーの文字がある。
ほら、お前の大好きなセイコーだ、どうだにいちゃん、百だ。

「はっは そりゃねえよ」

冗談だよ、50でいいよ。 へへ

にいちゃん覗き込んだ。

な、ホンモンだ、最新型だぞ。もう負けられねえよ。

にいちゃん友達呼んで5人で真贋検査と値踏み。
5づつ下げてきやがった。ひひ

さあ御立ち合いだ、日本で買えば千ルピーの代物だ。
それが50、じゃ45でどうだ・・・で結局30でやられた。
 
その金で昨日見た牛の絵とシバ神の絵を買った。
2.75ルピー。ありがとさん。ひっひ 

さあ次はラクソウルだ。今夜の列車に乗ろう。


目指すはネパール、カトマンズ。キャットマンドウー。
 
皆は草が目当てだが、俺等は純粋に神を・・・
サガマータシバの神々しい光を・・なんちゃって。ひっひ

チャイ飲んでたらアフガンで会ったウオルターが来た。
見たことある日本人もふたり居る。

髪切ったのか。

「ああ、長髪は尋問されるからな。」

痩せたなウオルター、中近東痩せだな、気をつけろよ。

情報交換して住所交換。元気でな。貧乏ヒッピーの連帯感。
 
 
鉄道駅に着いたがまたひと悶着。

学割は中央駅からでなきゃ使えねえって。バッキヤロ早く言え。

リキシャ飛ばして中央駅ですべりこみ。
犬小屋並みの列車、でも空いてたんで4人とも一応寝れた。

 
1月10日 朝10時。マズファプールで乗り換え、
2時の列車でスガリ駅まで行く。

途中、検札が来て難癖つけやがった。

「お前等、普通乗車券のくせにエクスプレスに乗った。
罰金だ。11ルピー払え」 

冗談じゃねえ。チケット確認したじゃねえか。
そんでわざわざリキシャで中央駅まで行ったんだ。
こうなりゃとことんやってやるぞ。

スガリ駅で降りて駅長と喧嘩。

「よく聞け。ここはインド、これはインディアンローだ。
君達が払わないと日本大使館に連絡する」

なーにこきやがる。連絡してみやがれ。

「これはインディアンロー・・・」 

うるせえ! わかった。その法律はお前が儲ける法律だろ。

ものは相談だ。負けろよ。

「これはインディアン・・・」 

うっせえ。お前は一番偉い。だからその法律をまげろよ、なっ。

「じゃあ6ルピーでいい」 

4人で24払ってやった。こっちは腹減って気が立ってんだ。バカ


夜10時、ラクソール着。 国境でまたモメるんじゃねえか、
と思ったらパスチェックは簡単、5ドル強制両替だけ。

リキシャ乗り継いで10時半過ぎ、やっとビリガンジーに入った。

そんでホテルでまたひともめ。

満員? だってそこの部屋空いてるじゃねえか。

結局、半額払って廊下に寝かされた。

駅でホテルで、1日中ケンカだ。ったくよ。

旨いもん食いてえ・・・腹一杯食いてえ あーあ







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