兄貴がミカエルになるとき
機内食が運ばれ始めたようだ。

食べ物の匂いに胃が刺激され、急にお腹が空いてきた。

そういえば今日は朝食を食べていなかったっけ。

前の座席に座っているママを覗き込むと、ワインを飲みながら本を読んでいる。

きっとまたサスペンスの世界に入り込んでいるのだろう。

飛行機に乗るときの時間つぶしはお酒を飲みながらサスペンス小説を読んで寝るのが一番だ、とママはいう。

眉間に皺が寄っている。

表情の険しさから推測するに、物語は佳境を迎えていると思われる。

トオ兄は座席のポケットに入っていた機内食のメニューをちらっと見て、「カレーが食べたい」とつぶやき、またすぐ戻した。

残念だけどこの匂いから察するに、機内食はカレーじゃない。
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